ドライブするだけで命に危険が迫る国道をご存知だろうか。「国道」と聞けば、生活道路よりも道幅が広く、きちんと整備されている道をイメージしがちだ。しかし、全国にはそんな常識を根底から覆す、とんでもない国道が数多く存在する。そんな危険でエキサイティングな国道のことを、我々は“酷道”と呼んでいる。
今回の酷道
大型車は絶対に通れない
三重県の主要国道「酷道368号」
三重県津市〜三重県松阪市
国道368号は、三重県伊賀市を起点とし、ほんの少しだけ奈良県内を通過して三重県多気町に至る。延長は72キロしかなく、国道としては短い部類に入るだろう。そんな短い国道にも“酷道”が存在する。三重県津市と松阪市の間にある仁柿峠の区間だ。酷道区間は短く、5キロほどしかない。しかも、国土交通省の資料によると、この仁柿峠区間は「三重県内陸部において伊賀地域と松阪地域及び南勢地域を結び、この地域の交流・連帯を支援する上で重要な役割を担う路線です。」と書かれている。
交通にとって重要な路線で、しかも酷道区間はわずか5キロ足らず。この状況から、近い将来酷道区間が解消されることは、容易に想像できる。実は“仁柿峠バイパス”が平成2年度に既に事業化され、現在も工事が続いている。10年間に及ぶ工期の末、来年度には完成する予定で、そうすれば酷道368号は過去のものになってしまう。そんな焦りを感じながら、仁柿峠を訪問した。
道の駅美杉から松阪方向へ走ると、間もなく仁柿峠の入口に差しかかる。
“この先大型車は絶対に通れません。”
大型車への注意喚起の看板は、酷道でよく見る光景だが“絶対に”の部分に強い意志を感じる。“大型車通行不能”が一般的で、行政がここまで強い言葉を使って注意を呼びかけることは、極めて異例だ。異例かつ本気を感じる看板に、惹かれない者などいないだろう。私もハートを鷲掴みにされてしまった。否応なしに、酷道への期待も膨らむ。
いよいよ峠区間に突入すると、道幅が一気に狭くなった。この道幅では、普通車同士でもすれ違うことは不可能だろう。仮に対向車が来れば、どちらかが大幅にバックしなければならない。退避可能な場所を通り過ぎる度に、次の退避場までの距離を心の中で測りながら走る。こうして好きで酷道を訪れている以上、対向車が来た場合、こちらが常にバックするように心がけているが、後続車があるとそういうわけにもいかない。そのため、退避場までの距離を常に把握し、対向車が来た場合に備えながら走るようにしている。
林によって日光が遮られ、谷側のガードレールは途切れ途切れだ。いかにも酷道らしい光景に、テンションも上がる。カーブの膨らみには、酷道にありがちな不法投棄禁止の看板が立っていた。「これも酷道の代名詞だよなぁ」と思いながら通過していると、1箇所だけこれまでと異なる看板が立っていた。不穏な文字が見えた気がしたので、すかさずバックして戻った。
“ここで死体遺棄事件がありました。目撃された方はご連絡下さい。”
三重県警松阪警察署の捜査本部が設置した看板だった。酷道368号には、インパクトの強い看板が多い。とにかく、酷道にはゴミも死体も捨てちゃダメだ。
368号は、短いながらも素敵な酷道だった。ご訪問は、お早めに。
峠の入り口に設置されている、三重県の本気が伝わってくる看板。
民家の近くには石垣もあり、生活道路感も滲み出ている。
鹿取茂雄
酷い道や廃れた場所に魅力を感じ、週末になると全国の酷道や廃墟を旅している。2000年にWEBサイト「TEAM 酷道」をスタート。新著『酷道大百科』(実業之日本社)発売中!
http://teamkokudo.org/