【vol.46】第14回 伝統保存食入門

アンダンスー

今回は沖縄のソウルフードとも呼ばれている「アンダンスー」を紹介しよう。味噌汁と同様に各家庭にそれぞれのレシピがあり、どの家の人間も「うちのが一番!」と思っている、そんな料理である。なので、レシピも作り方も、バリエーションも様々あって、つまりは、各自気軽に作って構わないということだ。

オバァやアンマーの味はなかなか出ない

僕は青森生まれだが、はじめて沖縄に行った時に、全然違うのに似ているという、とても不思議な感覚を受けてビックリした。

自然環境はまったく別物だし、何より太陽の強さ、海の色がまったく違う。でも、すぐにアレ? と思ったのだ。青森では自分のことを「ワ」というのだが、こっちでも自分のことを「ワン」って言ってないか? 

青森でも沖縄でも楽器といえば三味線だ。そういうことに気がつき始めると共通点が山ほどある。つまり、歴史や環境は違うけれど、根っこは同じ感じがしたのである。

オバァに沖縄料理を教わりたくてウチナーグチ(沖縄方言)も勉強した。でも料理のレシピは分量なんて教わったことは一度もない。

アンダンスーのアンダとは脂、ンスーとは味噌という意味で、アンダンスーは内地でいう肉味噌のことだ。ピスタチオを入れるのを教えてくれたのは友人の叔母さん。深みとコクのある味に驚き、自分のレシピに加えた。ちなみに、沖縄料理の手作りの味、あじわいを示す言葉は「ティーアンダ(手の油)」と言う。

青森と沖縄、似ていると書いたけれど、実は国から受けている境遇も似ている。かたや原子力のゴミを押し付けられ、かたや米軍基地を押し付けられている。他のどこも受け入れたくないものを押し付けられているという意味では、まったく同じだ。

【材料】味噌300g、豚バラ肉300g、砂糖150g、みりん20cc、泡盛100cc、グレープシードオイル10cc、ピスタチオ150g(なくても可、クルミやアーモンドに代えてもいい)

【作り方】
❶豚バラ肉の赤身と脂身を切り分ける。赤身はさらに5mm角程度の細切れにしておく。僕が教わったのはこの方法だが、切り分けずバラ肉全て角切りにする人もいる。
❷ピスタチオは半量を粉に近くなるまですり潰し、半量は粒が残るくらいに潰す。
❸粉にした方はグレープシードオイルを足しながらペースト状になるまで、さらに練る。
❹フライパンで脂身を熱して液状の脂を抽出する。火は極トロ火。決して熱しすぎて焦がさないこと。この脂(ラード)が沖縄では「アンダ」もしくは「アンダー」と呼ばれ、沖縄料理では欠かせない食材のひとつだ。沖縄料理屋では壷や小型の甕に入れてある。
❺赤身を中火で熱し、途中で泡盛を加えて含め煮状態にする。
❻煮汁がなくなってきた頃に、味噌、砂糖、みりん、ピスタチオ、抽出した脂を加えて弱火で熱し、練りながらしっかり混ぜ合わせる。
❼自分の好みの味になるように調整していく。ショウガの汁を加える人もいるし、トウガラシを加えて甘辛にする人もいる。
❽煮沸消毒した容器に入れて完成。ご飯に乗せて食べてもいいし、そのまま酒の肴にしてもいい。

沖縄では「アンダンスー用の味噌」というものが売られている。普通の味噌との違いは粒の大きさだ。内地では粒味噌を使うといいだろう。味噌の種類は白味噌や塩気の濃い味噌ではなく、普通のもの。

脂身を極弱火で熱して液状の脂を抽出させる。焦がすと大事な脂に焦げの匂いがついて台無しになってしまうので注意。出た脂は別の器に少しずつ移しておく。

肉に火が通ったら、味噌や他の材料を全て入れて、練りながら混ぜ合わせていく。何度も味見をしながら、自分の好みの味にしていくのが楽しい。

写真・文 鈴木アキラ

1960年生まれ。料理と刃物研ぎが大好きな飲んべえアウトドアライター。「アウトドアで活躍!ナイフ・ナタ・斧の使い方(山と渓谷社刊)」ほか著書多数。