【Vol.45】はじめてのタープ泊 ーもっと身軽で 自由な過ごし方を求めてー

想像力=創造力で地球の覇権を握った人間だから、自ら生み出した完全無欠の装備で野生を支配するのも一手。環境そのものを変えて自然淘汰から逃れるやり方が、悪かと言えばそうでもない(正義でもない、言わば好みの問題だ)。身近なところではテント泊がそうだ。外界を手軽に遮断できる箱の存在は、安全快適を求めて環境そのものを変える手段。人々が自然の豊かさを平等に享受するため(※1)の脱・淘汰装備なのだ。ただ、キャンプにも慣れて”アウトドアマン“を自負するほどになると、野生界の”ふるい“にあえて挑みたくなるのが本能である。環境の変化に対応して、その場を切り抜けることができるか。つまりは自分の実力が如何程のものか……を試してみたくなるのだ。
というわけで、その第一歩に相応しいのがタープ泊(※2)。外界との壁を取っ払い、環境のプレッシャーを肌身で感じながら生活する。
いつものキャンプにマンネリを感じたなら、今こそ生の自然と対話するべきである。
※1 それが高所登山なら純粋に生き残るための脱・淘汰装備だ
※2 この先にあるのが所謂「現地調達系サバイバルキャンプ」である

誰でもできるタープ泊入門

初~中級者でも今すぐ実現可能な範囲で、最も生の自然を体感できる野営スタイルがタープ泊。天候にさえ気をつけていればテント泊とさほど変わらない感覚で一夜を明かせるため、日頃の野遊びにも簡単に導入することができるはずだ。そんなわけでここでは、すべての基本となる定番のタープ泊スタイルを解説する。これさえ覚えておけば、とりあえず次の週末から玄人の仲間入りである。

LESSON 01 タープ設営の基本

はじめてのタープ泊には最も基本的なダイニングフライがお勧め。この張り方は天候の変化に対応しやすく、ロープワークなども含めて後々応用が利くからだ。装備のさらなる軽量化を求めて、如何に専用道具を使わず、手軽にタープ設営ができるかも考慮しておくと、さらに身軽な野営が楽しめる。

LESSON 02 焚火台の 実践的利用法

外界との境目がないタープ泊に欠かせない火床。これに焚火台を用いるメリットは、第一に場所が限定されないこと(直火禁止キャンプ場でも楽しめる)、第二に直火以上の燃焼効率を得られることだ。とはいえ、これを実用的な火床に仕立てるには、焚火台選びから一考する必要があるので慎重になりたい。

CATALOG 幕営道具型録

おそらくタープ泊が初~中級者を近づけない最たる理由となっているのが、就寝にまつわる諸問題。ほぼ露天状態で快適な睡眠を得るには、最適な温度帯のスリーピングバッグに加えて水気を通さないカバー、地面の凹凸や冷気を緩和するマットが不可欠だ。フィールドにあった装備選びこそが最大のポイントとなる。

COLUMN 失敗しない 焚火炊飯術

設営に時間を取られず、身軽で気ままなタープ泊だからこそ、そこで食べる飯にはこだわりたいところ。タープ泊と合わせて必須の野営スキル“焚火炊飯”を習得すれば、マンネリ気味ないつもの野営を一気に盛り上げてくれること間違いなしだ。

30Lのトートバッグにすっぽり収納できる タープ泊 道具一覧

装備が軽くなる点もタープ泊の魅力。今回の装備もLLビーン「ハンターズ・トート・バッグ」のラージサイズ(H38×W43×D19cm/29L)に収めることができた。見た目にも身軽で自由な野営が実現できる。

1.寝具

タープ/パラコード/スリーピングバッグ/スリーピングカバー/スリーピングマット

3.基本装備

ナイフ/ノコギリ/グローブ

2.焚火道具

焚火台/メタルマッチ/スパッタシート

4.調理具

クッカー(鍋)/ガラス蓋/ワンカップ/水筒/カトラリー/米/調味料(ふりかけetc)

使用アイテム

SLEEPING BAG

mont-bell DOWN HUGGER 800 HALF LENGTH #3

一年を通して使えるハーフレングス

中綿は足元からみぞおちまで。生地のみの上部はダウンウエアやアルパインウエア等と組み合わせて使用するため、夏の高山から冬の低山までが守備範囲。収納サイズφ12×24cmと超コンパクトだ。1万9000円(税抜)

SLEEPING BAG COVER

mont-bell BREEZE DRY-TEC SLEEPING BAG COVER

結露を防ぎ保温力を高めるカバー

スリーピングバッグにかぶせて組み合わせて使用。テント内で発生した結露等から本体を守り、保温力も高める。透湿性にも優れるため、スリーピングバッグ内をドライで快適な状態が維持できる。1万1000円(税抜)

SLEEPING MAT

NEMO SWITCHBACK SHORT

2層フォームを採用した新型パッド

六角形シェイプをベースとした独自のデザインと硬さの異なる2層フォームの組み合わせで従来品よりも快適度をアップ。裏面のフィルムは地面からの冷気を遮断。効果的に蓄熱することで暖かさを保つ。5000円(税抜)

TARP

oxtos RECTA TARP

長方形デザインのコンパクトモデル

288×236cmのレクタタープ。もとはツェルトフライとして企画されたモデルだが、タープ単体でも使用可。素材は30DリップストップナイロンPUコーティングで、天井部はシームテープ処理が施される。6000円(税抜)

CARRYING BAG

L.L.Bean ZIP HUNTER'S TOTE BAG WITH STRAP

アウトドアからタウンユースまでマッチ

素材は耐久性に優れた1200デニールのポリエステルを使用。ボトムにも補強が追加されるタフなトートバッグ。内側に耐水コーティングが施されギアをドライにキープ。ショルダーストラップ付き。高さ38×幅43×奥行き19cm、容量29L、重さ709g。8900円(税抜)

LESSON 01 タープ設営の基本

ポールとセット売りのファミリーキャンプモデルも含め、ほとんどのタープがこれを想定していると言って過言ではない定番スタイル「ダイニングフライ」。が、これを悪天にも対応する寝床として張るとなると、レジャーのそれとは異なるスキルが必要となる。ポイントなるのはロープ(ここではパラコードを使用)でしっかりと梁を作ること。これさえ確保できればテントに勝る耐風性能が得られるほか、タープが張り上がってからの高さ調節なども比較的容易に行うことができるのだ。ちなみにこの設営法を覚えれば、「Aフレーム」やツェルトの設営にも応用できる。

01.梁ロープの張り方

屈強にタープを張る上で最も重要な梁をロープで作る。手っ取り早いのは適当な間隔にある立木を利用する方法だが、林間でなくとも大きな岩、屈強な草などをアンカーとしてロープを張り、それを適当な高さまで木枝で引き上げてやれば良い。

ボウラインノットで片側は固定しておく

梁ロープの片側はボウラインノットで固定。この際、一巻き余分に立木へロープを回しておくとテンションがかかっていない状態でもずり落ちず、ソロでの設営時に作業効率が上がる。

ちょうど良い長さで ロープを切っておく

続いては、テンションをかけた状態でもう片方の立木に一巻き以上できる長さを目安に梁ロープを切断する。大体同じ間隔で生える立木を探せば、以降も同じロープで梁が作れる。

フリクションノットで梁にテンションを掛ける

梁ロープが木に回り込む直前あたりにスリングでプルージックを作る。続いて先ほど切断してできたロープ末端をプルージックに通し、ボウラインノットで連結する。最後にプルージックを立木から離れる方向へ引けば、梁ロープに強烈なテンションを掛けることができる。

02.タープの掛け方

タープを単に梁ロープにかけるだけでは、両端にポールを立てて張る設営法と違ってタープ自体にテンションがかからない。そのため梁ロープ設置で用いたフリクションノット「プルージック」を用い、テンションを掛ける必要がある。

フリクションノットで 両端からタープを引っ張る

ピンと張った梁ロープにタープを掛けたら、その両端にもプルージックを作り、適当な落ち枝をトグルに見立ててタープと連結。どちらかのプルージックを引けば、タープを張ることができる(両方動かせばタープ位置調整もできる)。

03.ガイラインの付け方

ボウラインノットで 四隅のタブに固定

タープ四隅のタブにそれぞれボウラインノットで固定する。ボウラインノットは解きやすいので、ガイラインの長さを変える場合にも便利だ。

余ったパラコードでガイラインを作る

タープの四隅を張るガイラインは梁ロープ設置時に切断したパラコードを使う。だいたい2ひろ(両腕を広げた長さ=1ひろ)あれば良い。

04.アンカーの取り方

ガイラインのペグダウンは、野営地の環境によって様々。大きな岩が転がっている河川の近くならそれに結びつけておくだけでペグ以上の強度が出せるので便利だ。反面、強風が吹き荒れる浜辺などの環境には、板ペグなどを使いたい。

ダブルオーバーハンドノットでガイライン末端に輪を作る

ボウラインノットなどで作る固定された輪では、岩に掛けても不意に外れてしまうことが多い。ここで有効なのはガイロープ末端に輪を作り、ダブルオーバーハンドノットで固定する方法だ。これなら内径を自在に調整できる。

大きな岩に輪を通し ガイラインを引いて固定

ダブルオーバーハンドノットで作った輪に岩を通してからガイラインを引くと、その大きさに合わせて輪を縮めることができるため外れにくい。

ー現地調達でこなすアンカーのバリエーションー

蔓系の草や笹を束ねて、ダブルオーバーハンドノットで作った輪やクローブヒッチで留めておくのも有効な方法だ。

Y字に枝分かれした枝をうまく使うことで、ガイラインが抜けにくい現地調達ペグを作ることができる。

立木

ガイラインが幹に回り込む手前部分および末端に輪を作り、落ち枝をトグルに見立ててそれぞれを連結する方法もある。

タープの 自由度を活かす 天候に応じた セッティング

雨風や日差しなどの状況により、フライの高さを簡単に変えられるのも梁ロープを用いた設営法のメリットだ。梁ロープはフリクションノットでテンションを掛けているため緩めるのも簡単。当然、梁の高さを変えるとフライの高さも変わるのだ。

タープ内の風通しを良くしたいならフライは高く、雨風の侵入を防ぎたいならフライは低く調整する。ひさし部分を地面にペグダウンしてしまえば「Aフレーム」となる。

ロープワークに欠かせないスリングの作り方

プルージックノットやクレムハイストノットなど、フリクションノットを用いる上で不可欠なスリングはあらかじめ用意しておきたい。強度が必要な場合はダブルフィッシャーマンズノットなどを用いるが、タープの設営程度ならオーバーハンドノットを用いたただの輪っかで十分だ。

ロープの切断面は熱で溶かして固定しておかないと解けてしまう。特に今回使ったパラコードはすぐに解けてよれてしまうため、必ずライターなどで末端を処理しておこう。