本誌のテーマでもある“常識を疑う”。これは何かに書かれていたこと、もう決まっていることを鵜呑みにするのではなく、自分で考え、試してから選択することである。一つに登山靴はミッド~ハイカットという定説がある。
Photo/Toshiaki Furihata Text/Fielder
今よりも行動範囲を広げる 機動性に優れたローカットという選択
道具の進化には2つの志向がある。1つは今の主流である安全快適な生活のため、もう1つは各専門分野に見られる人類の能力向上のためである。この2要素はきっぱり分けられているわけではなく、それが家電であっても両者を内包している。ボタン1つで洗濯~乾燥をこなす洗濯機は現代を象徴する快適製品だが、一方で、洗濯板の前に長時間拘束されてきた人類(主に女性)を解放し、社会進出を促して生産力を増強する役割もある。金が巡る速度を引き上げることが人類の目標なら、これも能力向上の1つだろう。
金云々はさておき、本誌としては道具が内包するこれら志向の比率こそ、装備選びの参考になると考えている。例えば服部が実践するサバイバル登山に、時に「便利な金属製品や雨具を携行しているじゃないか」といういちゃもんが付くらしいが、あくまでそれらは過去の人類(上條嘉門次etc)よりも速く、広く山岳を移動するための選択であり、安全快適を求めているわけじゃない。比率としては8:2あたりで能力向上思考が上回る道具がサバイバル登山装備に選ばれている。逆を言えば、日本の山岳において通信機器は快適安全性に振れるが、服部が月面を旅するなら、アームストロングを超えるために最先端の通信機器を携行するはずだ。
というわけでローカットの登山靴という選択。無尽蔵に力が湧き出るはずもない我々にとって、足元の軽量化はそのまま行動範囲の拡大に繋がり、過去の自分を超えるための重要な手段となる。
※商品情報は本誌発売当時(2019年4月)のものです
LOWCUT SHOES
[ローカットシューズ]
MONT-BELL CRAG STEPPER [モンベル・クラッグステッパー]
岩場へのアプローチ、自然散策、キャンプ等、幅広く対応する全天候型モデル。ソールは独自のパターンとねばりを持つ特殊ゴムの採用で、濡れた岩肌や木道でもグリップ力を発揮。擦れやすい前足部とかかとは1.6㎜厚のスエードレザーでカバーし、耐久性も高い。1万5800円(税抜)
アッパーには世界最高レベルの防水透湿性を誇るゴアテックスを使用。外部からの水をシャットアウトし、内部の蒸れを発散する。
KEEN VENTURE WP [キーン・ヴェンチャーウォータープルーフ]
“クイックストライクハイク”をコンセプトに開発された次世代型ハイパフォーマンスモデル。アッパー素材は独自のキーンドライとTPUを組み合わせ、優れた防水透湿性を発揮しつつ耐久性を高めた仕様。新開発の7角形ラグパターンソールはアップダウンに対応する。1万7000円(税抜)
かかとを固定し、フィット感を高めるコネクトフィットシステムを搭載。シューレースと連動してアジャストできる仕組み。
INOV-8 ROCLITE 315 GTX MS [イノヴェイト・ロックライト 315 GTX MS]
鉄の200倍の強度を持ちながら軽量で、曲げ伸ばしと折りたたみも可能なグラフェンをソールに採用した1足。岩やガレ場のグリップ力と耐久性を両立し、軽量登山やファストハイク等にも対応する。1万9000円(税抜)
内装には防風・防水・透湿性と履き心地を快適に保つ「ゴアテックス・インビジブルフィット」を採用し、人工皮革と合成樹脂を組み合わせ、過酷な環境下でも快適性を確保する。