【Vol.43】ALL ABOUT SURVIVAL SKILLS ー自然の真ん中で、肥えた資本家を笑えー

[基礎訓練]メタルマッチを用いた 火熾しの基本

火口となり得る素材は 特徴的な形状を有している

サバイバルスキルの基本とも言うべき火熾し。当然ライターを持っていればそれで火を熾すに越したことはないが、より長期的なサバイバルを想定するならメタルマッチを道具袋に備えておいた方が安心だ。マグネシウムの急激な酸化(火花)を火種とするこの道具は、ガス〜オイルライターより長持ちするし、機構が単純なので水濡れなどにも強い。

さて、続いてはメタルマッチで熾した火花を小さな炎に成長させる火口について。ここでは火口に使える代表的な天然〜人工素材をピックアップしているが、いずれも火花の微小な熱で組織が分解し、可燃ガスを放出できる極細の毛や極薄のフィルムのような形状を有している。素材に含まれる油分の差こそあれ、この特徴的形状を備えた、あるいはナイフなどでそれを再現できる素材であれば、多くのものが火口となる可能性を秘めているのだ。


火口となり得る身近な素材一覧

・細く裂いた白樺やスギなどの樹皮
・木(竹も可)の細かな削り屑
・枯れた針葉樹の葉や草、苔、キノコ類
・完全に腐った倒木の欠片
・種子の穂先や鳥の羽毛などの綿
・ポケットに溜まった糸屑

TINDER. 01 樹皮[白樺]

燃焼時間/30秒

※写真の火口サイズ

ー豊富な油分を内包した天然火口の定番ー

森に生えている木々の樹皮は天然火口の代表格。樹皮がペロリと剥がれるタイプは乾燥していて採取もしやすく、優良な火口となる(緊急時以外は倒木から採取すること)。とりわけ、ここで取り上げた白樺の樹皮は油分を多く含み、ナイフなどで加工しなくともフィルム状の薄皮を備えているので鉄板の火口と言えるだろう。

TINDER. 02 綿毛[ススキ]

燃焼時間/1分

※写真の火口サイズ

ー抜群の着火性を誇る綿毛の代表格ー

素材に含まれる油分を問わず、一本一本が微細なために火花程度の熱ですぐさま可燃ガスを放出してくれる綿毛。ここではススキの穂先を用いているが、綿毛系の注意点を挙げるなら、火熾しの際の置き方だ。綿毛を密集して置いてしまうと表面のみ燃えるだけで中まで火が燃え移らない(酸欠になる)。平たく広げて置くようにしたい。

TINDER. 03 麻紐

燃焼時間/30秒

※写真の火口サイズ

ー火口にも使える定番の工作アイテムー

鳥の巣状にして火口を包み、炎を成長させる手段としてよく用いられる麻紐だが、そもそもこれ自体が立派な火口である。麻紐をほぐして綿状にすれば、比較的簡単にメタルマッチで火を熾すことができる。ブッシュクラフトによるシェルター作りなど、サバイバル野営には欠かせないアイテムだけに、平時はこれを火口にすると良い。

TINDER. 04 ファットウッド

燃焼時間/1分30秒

※写真の削り出した火口サイズ

ー省エネ性にも優れた火熾し専用品ー

そもそもメタルマッチによる火熾しを想定した火口なので、その性能は説明不要だろう。元来可燃ガスを多く含む木片に、さらに油分を浸透させることで抜群の着火性と燃焼持続力が与えられている。火熾しの際は木片をナイフで細かく削り取って使うが、少量でも炎が持続するのでなかなか減ることがなく、省エネ性も高い。

TINDER. 05 軍手

燃焼時間/2分

※写真の火口サイズ

ー専用着火剤に劣らぬ隠れた実力派ー

サバイバル野営時に備えている可能性が高い軍手も優良な火口となる。ポイントは高級な綿100%製品ではなく、ポリ素材を使用した安価なものであること。化石燃料系ゆえに炎の持続力は抜群。ナイフで切り取った際にできる綻びは綿状となるため、着火性も上がるのだ。こちらは雨天で乾いた火口が見つからない場面での一手として使いたい。

[基礎知識] 焚火の一生

炎が育っていく過程を捉えて焚火を理解する

いくらメタルマッチで火花を散らせても、大きな薪に直接火をつけることはできない。焚火を成功させるコツは“段階的に炎を移していく”という意識にあり、ここでは火口で生まれた炎が如何にして大きな薪へ燃え移るのかを再確認したい。左記の「ファイヤートライアングル」と合わせて火を理解すれば、必ず焚火成功率は上がるのである。

焚火のポイントは 熱で可燃ガスを引き出すこと

 ファイヤートライアングルは火の発生に必要な要素を端的に表したモデルだ。図の通り、火の発生には燃料、酸素、熱の3要素が不可欠であり、それぞれが働き合い、連鎖的に化学反応が繰り返されることによって火は維持される。具体的には「熱」により「燃料」から可燃ガスが放出され、それが急激に「酸素」と結びついて燃焼する。この急激な酸化の際に発生した熱がまた、「燃料」から可燃ガスを引き出していくのである。
 このサイクルを理解すれば、メタルマッチで生成した火花では薪に火を着けられない理由もわかる。火花には薪の組織を分解し、可燃ガスを引き出すだけの熱量がないのだ。焚火で最も重要となるポイントは、熱で素材から可燃ガスを引き出すパート。大前提として、物質は固体〜液体状態では燃えず、気体(可燃ガス)となって初めて燃えることも意識したい。

FIRE TRIANGLE

ファイヤートライアングルは火災を理解し、消火方法を考える際によく用いられる。消火の際に行う「水を掛ける」「密閉する」「ガスの元栓を閉める」といった行為は、この3要素のどれかを引き抜き、連鎖反応を止めているのだ。

観察に適した焚火型
LEAN TO型

ここでは、初めから薪を組んでおく多くの焚火型とは異なり、ゼロから炎の成長とともに薪を組んでいくLEAN TO(リーントゥ)型を用いた。火を育てている実感が最も強く感じられるので面白い。

燃えやすさ順に燃料を用意して段階的に炎を移していく

燃えやすさ、すなわち小さな熱量で可燃ガスを引き出しやすい燃料順に火口、焚き付け、細い薪、太い薪の4種類を用意しておく、火口は前項で解説しているので割愛するが、焚き付けはいわゆる小枝、細い薪は指ほどの枝、太い薪は手首ほどの枝が基準だ。当然、“太い薪”から可燃ガスを引き出す際に最も熱が必要なので、細い薪は多めに用意しておくと良いだろう。

STEP.01 火口に火を着ける

ここではススキの穂先を火口に用いた。前項の通り、綿毛は密集させてしまうと酸欠で火が続かないが、平たく広げて置くとよく燃えてくれる。当然広範囲で炎が上がれば熱量もそれなりに稼げるので、焚き付けにも炎を移しやすいというわけだ。小さな炎を上げる火口より即効性がある。

STEP.02 焚き付けに炎を移す

ススキに火が着いたらすかさず焚き付けを被せたいが、ここでの注意点は火口を酸欠状態にさせないこと。空気の通り道を作るため、ここでは2本の“細い薪”に焚き付けを乗せ、炎が移るまで浮かせておいた。油分を多く含む火口なら盛大に焚き付けを被せても燃え続けるので“放置プレー”で良い。

STEP.03 細い薪に 炎を移す

焚き付けにしっかりと炎が移ったら、細い薪をその上に置く。焚き付けにもなると燃焼中は十分な熱量を発しているため、途中で火が絶えることもなく薪を熱し続けてくれる。ゆえにここは“放置プレー”で良い。

STEP.04 太い薪を組む①

細い薪に炎が移ったところで、リーントゥ型の真骨頂とも言える太い薪のセッティングに入る。まずは焚火片側の地面にY字の枝を差し、梁となる太い薪をそこに差し掛ける。この際、太い薪の高さは細い薪と付かず離れず、ある程度の隙間ができる高さにしておくと後々楽だ。

STEP.05 太い薪を組む②

梁となる太い薪を置いたら、焚火を覆うよう交互に太い薪を差しかけて完成。差しかけた太い薪の隙間からは十分に空気が入るので、これで火種が消えることもない。あとは太い薪に炎が移るまで経過を見守る。

STEP.06 炎の勢いを見て燃料を追加

太い薪の可燃ガスを引き出すためには大量の熱が必要。ゆえに細い薪が可燃ガスを出しきり炎の勢いが弱まってきたら、すかさず燃料=細い薪を追加していく。先ほど梁の高さに余裕を見たのは、この作業を行いやすくするためだ。

STEP.07 太い薪に炎が移る

200度を超えると薪の組織が分解されはじめ、水素や炭化水素などの可燃ガスが噴出(煙が出る段階)。260度でそれに引火し(たまに炎を上げる段階)、600度以上で可燃ガスが自然着火(炎を上げ続ける段階)。これでついに太い薪へ炎が移った。

STEP.08 大部分が 赤熱燃焼へ

差しかけ部の薪が炭化し、骨格が崩れた状態がこちら。この段階で薪はほぼ熾となっているが、まだ太い薪が燃え残っているので焚火は終わっていない。消火のためにここで水を掛けてしまうと、生物分解が不可能な炭素の結晶=消し炭となって自然に還らない。

STEP.09 粘り強く燃やしきる

燃え残ってしまった太い薪の末端を熾の上に乗せて、再び可燃ガスを引き出し、赤熱燃焼まで持っていく。ここまでくると熾火も所々で鎮火し、完全な灰となって焚火の暖かさが失われていくが、これは焚火の後始末における重要な作業なので粘り強く待つ。

STEP.10 燃え尽きてほぼ全てが灰となる

全てを燃やし切れば薪はほぼ灰=ミネラルとなり、このまま自然へ還る状態となる。とはいえ、途中熱不足で熾のまま鎮火した炭もあるため、潰せるものは完全に潰して、炭素として自然に還す。潰れないものは持ち帰り、次回の焚火に活用したい。

[実践編]実用焚火レイアウト

火熾しから焚火の原理までを理解したところで、ここでは野営で実践的に使える焚火の定番レイアウトを解説したい。
どの型も山の玄人=猟師や釣り師、山ヤ、沢ヤが用いている焚火であり、火の熾しやすさから調理のしやすさまで、第一級の使い勝手を誇っている。
ぜひ習得して、これをベースに自身のオリジナリティを加えていきたい。

TRAPPER FIRE [トラッパーファイヤー型]

クッカーが置きやすく火力の強弱も付けやすい

名前にある「トラッパー」とは罠師のことで、別名「ハンターファイヤー」とも呼ばれる型。アメリカの猟師は獣を森深くまでストーキングする忍び猟が基本であり、転々と野営地も変えていく。ゆえに焚火には即効性を求めて、組み立て簡単にして着火性が良く、調理具の置き場も備えた型が生まれたのだ。見ての通り、V字型の火床は先端に行くほど火力が弱まり、ポットクレーンなどを作らずとも焚火にして明確な火力の強弱が付けられる。クッカーをV字の頂点におけば直接火に触れることがないので、料理の保温、米の蒸らしといった作業も簡単にできるのである。

MATERIAL

短い丸太(土台用)・・・2本
湿った枝(五徳用)・・・2本
薪・・・・・・・・・・・適量

組み立ては至って簡単。短めの丸太をV字に置き、その間に燃料となる薪を挟み込むだけである。着火の際は薪の上に火口、木っ端を置いて火をつければ、両端の丸太によって熱が溜め込まれ、すぐに薪へ火が移ってくれるので特別な作業は必要ない。

BACK LOG FIRE [バックログファイヤー型]

ポットクレーンが活きる変幻自在な火床スペース

ロングファイヤーの一端に大きな丸太を置き、簡易的なポットクレーンを設けたのがバックログファイヤー。焚火初期段階では着火性が良いロングファイヤーの利点をそのまま活かし、炎が完全に立ち上がってからは後方に置いた丸太のおかげで熱が逃げにくいため、火床スペースを左右に広げても火を維持しやすいのが特徴である。ちなみにこれは高さ調整機構を持たない簡易的ポットクレーンでも、火力を左右に分散させることで火力の調整ができるというメリットに繋がっている。飯盒やビリー缶など、吊り下げ系調理具を用いる野営家にとっては、最もスタンダードな焚火型だろう。

MATERIAL

短い丸太(土台用)・・・・1本
細い丸太(土台用)・・・・2本
湿った枝(五徳用)・・・・2本
Y字の枝(クレーン用)・・・1本
薪・・・・・・・・・・・・適量

まずは2本の細い丸太で薪を挟み込むロングファイヤーを作り、その一端により大きな丸太を据える。続いてY字の枝を大きな丸太に差し掛けるようにして、先端を地面に突き刺せば完成だ(重いクッカーを吊り下げる場合は石などの重りも据えておく)。

KEYHOLE FIRE [キーホールファイヤー型]

常時熾火を生成できる二段階火床システム

調理特化型焚火の中では比較的スタンダードなキーホールファイヤー。その名の通り火床を鍵穴状に象って、○部分で焚火、凸部分に焚火で生成された熾火を集めて調理するという二段階システムが特徴だ。一見、単に平地で焚火を起こしてそのまま熾火を集めるだけではダメ? と思ってしまうほど単純だが、それで良いなら先人は後世にこれを残さない。熾火だけを取り出すとすぐに熱が逃げて沈静化してしまうため、熱を逃さずスムーズに熾火を集めるための鍵穴状なのだ。いつでも安定した火力を維持できる、単純にして有用性の高い焚火型である。

MATERIAL

湿った枝(五徳用)・・・・2本
薪・・・・・・・・・・・・適量

はじめに鍵穴状の穴を掘るが、ここで重要なのがサイズ。鍵穴の凸部分は熾火を挟み込んで熱を逃さないための形状だ。あまり大きく採ってしまうと平地と変わらないこととなるので注意しよう。○部分で焚火を熾し、熾火ができたら棒などで凸部分に移して完成。

LONG FIRE [ロングファイヤー型]

最も簡単にして実用的なレイアウト

これまで幾度となく本誌でも紹介してきた実用焚火の大定番。欧米の野営家だけでなく、国内の山ヤ、沢ヤも挙ってこれを用いるほど実用性が高い型だ。利点は何よりその単純構造であり、焚火初期段階の組みやすさだけでなく、骨格となる2本の丸太まで炭化した焚火終焉段階からでも、外側から新たな丸太を押し込む(これまで使っていた骨格を薪として使ってしまう)だけでシームレスにリカバリーできる。「どんな状況でも火を維持しやすい」という能力は、調理のしやすさにも増してサバイバル環境では重要なポイントとなるだろう。

MATERIAL

短い丸太(土台用)・・・・2本
太めの枝(下駄用)・・・・2本
薪・・・・・・・・・・・・適量

基本的には骨格となる2本の丸太を平行に並べ、間に薪を置くだけで完成だが、ここでは確実に火が定着するまでの吸気用として下駄を履かせている。下駄は焚火初期段階で燃え尽きてしまうが、火が完全に定着してしまえば左右の丸太の隙間から空気を吸い込むようになるので問題ない。