【vol.43】第11回 伝統保存食入門

鮭の果実酢漬け

もうすぐ、お正月。今回はお正月にピッタリな一品を紹介しよう。塩鮭を使ったサッパリメニューだ。鱠(なます)の一種だと思ってくれていい。漬け込む汁の配合を変えることで、さまざまなオリジナルの製作が可能なので是非チャレンジしていただきたい。

歴史あるメニューだが 意外とシンプル

お正月料理のひとつとして、メインではないけれど、名脇役として光るのが「膾(鱠・なます)」だ。年末年始の飲み会などで、けっこうコッテリしたものを食べ続けてきた口や胃には、この酢の物のサッパリ感は非常にありがたい。おせち料理に入っているのも、多分そういった理由もあるのだろう。

今回紹介する「鮭の果実酢漬け」も鱠の一種と言っていいだろう。

「膾/鱠」は古代中国にルーツを持つメニューで、本来は薄切り、細切りの生肉や生魚のことを指す(肉の場合は膾、魚の場合は鱠)。孔子は肉の膾が好きだったという。しかし、現代の中国ではほんの一部の地域を除き、肉や魚を膾/鱠として食べる風習はなくなっているらしい。

日本でも膾の文字は古事記や日本書紀にも見られる。室町時代からは野菜のみの膾も出てきて、「薄切り、細切りにした食材を使った酢の物」全般を「膾」と呼ぶようになったようだ。お正月の紅白膾も食材はダイコンとニンジンがベースだ。

ちなみに、時代劇で悪人が「膾にしてやる!」などと凄むシーンもあるが、これはアメリカのプロレスなどで「お前なんか、ミンチ(挽肉)にしてやるぜ!」と言うリップサービスとほぼ同様だ。「膾」が「細切り、薄切りにする」という意味だとわかっていなければ、このセリフの面白さもわからないだろう。

【材料】塩鮭切り身4~5枚、タマネギ中1個、ユズ1~2個、ユズ果汁100cc、
りんご酢100cc、日本酒大さじ1、醤油大さじ1、砂糖大さじ3、水100cc

【作り方】
❶今回のような乳酸発酵食品を作る際に気をつけなくてはいけないのは雑菌の混入や腐敗だ。保存ビンはきちんと煮沸消毒しておいていただきたいし、まな板もきちんと洗ったものを、アルコール消毒してから調理にかかることが肝心。もちろん手洗いも。
❷日本酒、醤油、砂糖、水を合わせて鍋に入れ、いったん沸騰させてから冷ます。
❸②にユズ果汁、りんご酢を足す。これが漬け汁。果汁や果汁酢ではなく一般的な醸造酢を使う際には②の段階で足して沸騰させ、酢のキツさを和らげる。
❹タマネギ、ユズは薄切りにする。
❺鮭は皮と血合いを取り除いてから薄切りにする。
❻保存ビンに薄切りにした鮭、タマネギ、ユズを交互に詰めていく。
❼漬け汁をヒタヒタになるまで注いでから密閉する。
❽生食材で乳酸発酵を行うのでビン詰めした後に加熱殺菌や減圧密封は行なわない。
❾冷蔵庫で4日〜1週間寝かせて完成。

鮭は保存を目的とするならば、塩がきつく効いているものを選んだ方がいい。今回はちょっと贅沢をして「村上の塩引き」を使っている。塩鮭を風乾により長期熟成させた逸品である。新潟に行ったら是非GET!

タマネギとユズは、できるだけ薄切りにするのが望ましい。薄刃の包丁をパキパキに研いでおくことが大切。ユズは皮がしっかりで、身が柔らかいので特に切りにくい。

鮭は皮と血合いを外してから、身を薄くそぎ切りにする。鮭の身は脂分が多いのですぐに切れ味が落ちて身がバラける。こまめに刃を洗ったり拭いたりすることが肝心。

写真・文 鈴木アキラ

1960年生まれ。料理と刃物研ぎが大好きな飲んべえアウトドアライター。「アウトドアで活躍!ナイフ・ナタ・斧の使い方(山と渓谷社刊)」ほか著書多数。