【vol.39】春の森でマッドハットを作り 道具を生み出す

森にも春がやって来た。あの大雪は嘘のように姿を消した。1人での開拓は日進月歩だが動物達の気配が孤独を紛らわしてくれる。仮小屋をしばらくの住処とゲストハウスにするべくマッドハット化を決意! ブッシュクラフト的建築道具も紹介しよう。
写真・文/荒井裕介

大地の香りがするマッドハット

前回から引き続き修復を続けてきたフォレストハットだが、やっと竹屋根が張り終わった。屋根素材の変更に伴い、使用素材の全体的な見直しをすることにした。日本の環境に適した住みやすい家に変える。土壁だ。調湿効果があり、高断熱の建材でもある土壁はブッシュクラフトにはうってつけの素材。必要な赤土と竹の総重量はなんと800㎏にもなる。通常4人程でやるフォレストハットの建設を1人で行う。それを更にマッドハット化するのだから覚悟が必要だ。覚悟といっても重量物の運搬と地道な作業をこなす覚悟なのだが、ブツブツと独り言が多くなる。大きな工事の傍ら、その都度必要道具を作り出す。それが僕の今の息抜きになっている。春の柔らかい風が吹き抜ける森に腰を降ろして自分なりの道具を作るのは気持ちがいい。時々小鳥が僕のすぐ目の前に飛来する。僕に気が付いていないのだ。何だか森の一部になった気持ちになる。

屋根を張り終えて迎えた夜、屋根のある安心感と快適な空間に自然と顔がほころんだ。笹屋根のときより室内が広く感じるのだが、焚火をしていない室内は風が通って少し寒かった。

翌朝から見よう見まねで土壁を塗り始めた。驚いたのは一面塗り終えただけだが日中とても涼しくなるということだ。土の家というとなんともモロく不快なイメージがあるが、実際は凄く快適な住処になる。そして土で更なる進化をさせるべく作業は続く。

天然素材だけで組上げる工夫は現物合わせ。

設計図があるわけではない曲がった樹々を利用して組んでいくには、その場での対応力が重要になる。かつて製材されていない材料で建てられた物がどれほどすばらしく難しい物だったのかを僕は思い知らされた。

洋瓦のように上下を組み合わせてくんだ竹屋根は被せ側を留めるのにツバを付け、梁に止めていく。その数は5本にもなる。

屋根が張り終わり、やっとオープンビバークではない夜を迎えた。快適な寝床を得て、久しぶりに朝まで熟睡できた気がする。

マッドハットという新たなネグラを作る

フォレストハットから更に快適な空間に変えるベく、土壁の小屋マッドハットに作り替える。調湿効果と高断熱素材の土壁でより快適に四季を過ごせる家を作る。古き良き日本の技術でブッシュクラフト的アジト作りに挑戦。

1. 赤土に稲藁(フスマ)を加える。フスマは土と混ざり合うことで強固で粘りのある壁剤に変化する。ひび割れても剥がれない素材になるのだ。

2. 水を混ぜる前に泥とフスマをよく混ぜ合わせる。フスマの量は職人や土質によって変わるので、明確な分量はないようだ。テストしながらだめならやり直すしかない。

3. 水を加えて混ぜ合わせるのだが、泥はとにかく水を含むと重くなる。ある程度混ぜたら足で良く踏むようにして混ぜる。ただし長靴でやるのはお勧めしない。僕はかなり苦労した。

森に棲むなら道具も自作!? 小屋作りのための道具たち

せっかく森にいるなら、そこにある材料を余すところなく利用したい。炭、木材の切れ端、間引きした物など全て無駄にしたくはない。ならば道具に作り替えよう。今回はそのうち一部で、今の小屋作りの道具を紹介しよう。

自作道具01 チャコールペン

焚火で出る炭は締まりのない柔らかい炭が多い。消し炭として以外に何か使い道はないものかと考え、チャコールペンに応用してみることに。その柔らかさゆえによく書ける。ペン先としてとても良い素材である。

1. フジツルの皮を真皮まで厚めに剥いていく。真皮の繊維質の部分を丁寧に手で剥がす。ナイフで分けると切れやすくなるので注意だ。

2. 節を残した篠にマルチツールを使い、穴を空ける。力を入れ過ぎると割れてしまうので注意。奥が狭くなるようにしておくと芯が埋まるのを防げる。

3. 水に浸して柔らかくして先からしっかり巻き付けていく。持ち易さも向上するのだが竹の割れを防ぐための補強でもある。

4. 適当なサイズに削った芯を装着して試し書き。滑らかで書きやすい。最初に使ったときはニヤニヤしてしまうほど、使いやすく仕上がった。

自作道具02 バトン(こん棒)

武器になるほど大きなサイズのバトンを作ってみた。杭を打ったり、4mほどある竹を割ったりといった作業で活躍する道具だ。用途に合わせて異なるサイズのものを数本用意しておくと作業効率が上がる。

軽石は昔からヤスリとして使用されてきた。現代では角質除去としてその用途が残る。滑らかに仕上がるので木工に向いている。

自作道具03 タコ

タコを逆さにしたような形からそう呼ばれる。重さを利用した道具で、杭を打ったり地ならししたりする際に使用する。現在でも大型のホームセンターや専門店で販売されているが、丸太があれば作り出せる。

今回持参した刃物これがあれば十分だ

素材によって刃物は使い分けるのが基本。特にノコギリは用途がはっきりしている。ストレートブレードのハチェットは大工道具としてもその威力を発揮する。

久八と共同開発したハチェット。僕のモデルだ。ブレードがストレートで靭性も抜群で幅広く使えるのが魅力。

ノコギリは万能目の物とパイプソーを使用。パイプソーは竹を切るのに適している。目が細かいので仕上がりが綺麗だ。

ブッシュクラフター 荒井裕介

最近「何をしてるんですか?」の質問に悩んでいる山岳写真家。
最近4歳の娘がアウトドアに目覚め始め、シメシメと思っているもうすぐ40歳。薮ガール?にするか?著書に『サバイバル猟師飯』(誠文新光社)等がある。