[状況別]実用焚火リスト
環境が良ければ、薪をただ雑然と集めただけでも火は熾きる。ただ、問題はその後。調理、暖房に足る火力をどこまで維持できるか、焚火を崩さずに薪は投入できるか、水一杯のクッカーを安定して置けるか……、要はその焚火を優秀な野営道具として活用できるのか?答えは先人たちにより長年伝えられてきた焚火の型と、自身の発想にある。
写真/降旗俊明
火の原理を捉えることこそ実用的焚火の第一歩
特集の冒頭で紹介した「ファイヤートライアングル」の通り、火は燃料、酸素、熱の3要素が連鎖することで維持される。それを焚火に適用するとなると、薪が絶えにくい型、空気を取り込みやすい型、熱を溜め込みやすい型など、今自分が置かれている状況に適した特徴を焚火に与えることができる。
また、ひとえに薪が絶えにくい型といっても、それを調理のために求めているなら広い火床に薪が自動投入されていくタイプ、夜間の暖房のために求めているなら大きな薪を少しずつ確実に燃やしていくタイプといったように、焚火に与える特徴はさらに細分化できるのである。
というわけでここでは、長大なアウトドア史の中で先人たちが生み出してきた焚火型を、それぞれ野営家が求める状況別に紹介していきたい。当然、定番として語り継がれてきた焚火型というのはどれも基本性能が高いのだが、例えば用いる調理具の種類によって向き不向きがあるので(「ADDING GEAR」項参照)、その点も自身の野営環境と照らし合わせてほしい。
最後に、これらはあくまで膨大な焚火型を体系的にまとめた一例であるため、実際はここに自身の発想を加えて、さらに使いやすい焚火へカスタマイズしていくことをお勧めしたい。先人が発見してきた基本技術を踏襲しつつ、そこに小さなオリジナリティを積み重ねていくことこそ、ホモ・サピエンスの流儀である。
TRAPPER FIRE
[トラッパーファイヤー型]
名前にある「トラッパー」とは罠師のことで、別名「ハンターファイヤー」とも呼ばれる型。アメリカの猟師は獣を森深くまでストーキングする忍び猟が基本であり、転々と野営地も変えていく。ゆえに焚火には即効性を求めて、組み立て簡単にして着火性が良く、調理具の置き場も備えた型が生まれたのだ。見ての通り、V字型の火床は先端に行くほど火力が弱まり、ポットクレーンなどを作らずとも焚火にして明確な火力の強弱が付けられる。クッカーをV字の頂点におけば直接火に触れることがないので、料理の保温、米の蒸らしといった作業も簡単にできるのである。
MATERIAL
短い丸太(土台用)1本
細い丸太(土台用)2本
湿った枝(五徳用)2本
Y字の枝(クレーン用)1本
薪適量
ADDING GEAR
飯盒(ビリー缶)
クッカー全般
ダッチオーブン
焼き網
HOW TO LAY
組み立ては至って簡単。短めの丸太をV字に置き、その間に燃料となる薪を挟み込むだけである。着火の際は薪の上に火口、木っ端を置いて火をつければ、両端の丸太によって熱が溜め込まれ、すぐに薪へ火が移ってくれるので特別な作業は必要ない。
CLOSE UP DETAIL
V字に開いている火床は新気を取り込みやすく、燃焼効率も悪くない。薪の追加も容易だ。調理が終わり、火を長持ちさせたければV字の開きを狭めて空気量を抑えておけば良いだろう。
BACK LOG FIRE
[バックログファイヤー型]
ロングファイヤーの一端に大きな丸太を置き、簡易的なポットクレーンを設けたのがバックログファイヤー。焚火初期段階では着火性が良いロングファイヤーの利点をそのまま活かし、炎が完全に立ち上がってからは後方に置いた丸太のおかげで熱が逃げにくいため、火床スペースを左右に広げても火を維持しやすいのが特徴である。ちなみにこれは高さ調整機構を持たない簡易的ポットクレーンでも、火力を左右に分散させることで火力の調整ができるというメリットに繋がっている。飯盒やビリー缶など、吊り下げ系調理具を用いる野営家にとっては、最もスタンダードな焚火型だろう。
MATERIAL
短い丸太(土台用)2本
湿った枝(五徳用)2本
薪適量
ADDING GEAR
クッカー全般
ダッチオーブン
焼き網
HOW TO LAY
まずは2本の細い丸太で薪を挟み込むロングファイヤーを作り、その一端により大きな丸太を据える。続いてY字の枝を大きな丸太に差し掛けるようにして、先端を地面に突き刺せば完成だ(重いクッカーを吊り下げる場合は石などの重りも据えておく)。
CLOSE UP DETAIL
火床部は単純なロングファイヤーとなるため、着火時はより火床の幅を詰めて熱を溜め込みやすくするなどの調整が可能だ。また、ポットクレーンは大きな丸太により火床からの炎を受けにくいため、調理中に焼け朽ちることもない。
LONG FIRE
[ロングファイヤー型]
これまで幾度となく本誌でも紹介してきた実用焚火の大定番。欧米の野営家だけでなく、国内の山ヤ、沢ヤも挙ってこれを用いるほど実用性が高い型だ。利点は何よりその単純構造であり、焚火初期段階の組みやすさだけでなく、骨格となる2本の丸太まで炭化した焚火終焉段階からでも、外側から新たな丸太を押し込む(これまで使っていた骨格を薪として使ってしまう)だけでシームレスにリカバリーできる。「どんな状況でも火を維持しやすい」という能力は、調理のしやすさにも増してサバイバル環境では重要なポイントとなるだろう。
MATERIAL
短い丸太(土台用)2本
太めの枝(下駄用)2本
薪適量
ADDING GEAR
クッカー全般
ダッチオーブン
焼き網
HOW TO LAY
基本的には骨格となる2本の丸太を平行に並べ、間に薪を置くだけで完成だが、ここでは確実に火が定着するまでの吸気用として下駄を履かせている。下駄は焚火初期段階で燃え尽きてしまうが、火が完全に定着してしまえば左右の丸太の隙間から空気を吸い込むようになるので問題ない。
CLOSE UP DETAIL
ロングファイヤーは薪がすべて平行に並ぶことから天面が平らになり、そのままクッカーを置いても安定しやすい。また、薪が熾火に変わると火力が安定して煙もでないため、骨格となる丸太の間隔を広げて焼き鳥などが楽しめる。