遊びで学ぶ。夏のひと時父が娘に伝えられることは感じることだった。言葉では伝わらない物を一緒に探す。空まで届きそうな木に秘密基地を作る夏休みの冒険はインフラゼロのブッシュクラフト生活。教えられたのは、父だったのかもしれない。
写真・文/荒井裕介
かつての少年と娘が夏の森を冒険する
森にツリーハウスを作ると私が言ったとき、娘はよくわかっていないようだった。「シルバニアファミリーの小さな木のお家みたいなやつだ」と言うと、目を輝かせた。
台風が過ぎ、山に二人で向かうと、林道には倒木があり細い枝が散乱していた。予め運んでおいたパレット材を解き、適当な樹間を持つ楢の木に狙いを定める。脚立を掛けて、採寸、切り出し、組上げと行程を順にこなしていく。娘はそれをしばらく眺めていたが落ちていた枝で魔女ごっこを始め、森の中を散策していた。
しばらくすると手にクワガタのメスを持って誇らしげに見せてきた。インフラのない森で自分流の遊びをみつけ、父が掘った穴で用を足す。お菓子がいっぱい詰まった小さなリュックを背負って冒険していた。
しばらくしてウッドデッキ部分が出来上がった。娘の新たな遊び場だ。最初はおっかなびっくりだった3mの樹上もいつしか慣れ、足を外に投げ出し座って歌を歌っている。ハンドツールのみで組上げていく様をみてパズルみたいと言っていたが確かにパズルだ。先人達が残した知恵は遊びと生活が結びついたようなものなのかもしれない。
森の中に消えていった娘の手に山盛りのチタケがあった。「トトー! おうどんぱべる(食べる)?」と僕に差し出した。夕食はチタケうどんにした。娘は夕食準備を率先して手伝っていた。遊びのつもりなのだろうが、生活に必要な行為でもある。学ぶではなくただ習い覚える。それが自然と過ごす魅力で、一つ一つが冒険なのだろう。
森に棲むならアウトドアマンの夢を実現したい!?
ツリーハウスを作る
森で過ごすなら憧れのツリーハウスが欲しい。トムソーヤに憧れた少年時代の夢を今実現しようとしている。高さ3mのツリーハウスのベース作りには、昔作業小屋を作った際に残った防腐材を使用した。その他は全てパレット材と森にあるもので組上げる。僕にとっては廃材も自然も全てが大切な資源なのだ。
土台を作る
脚立だけで柱材を上げる。大きな工具も建築機械もない。それでも1人で家は建てられる。森に木を切る音だけが響く。ゆったりとした時間のなか、無心で作業する喜びがある。
立木3本と丸太を利用した支柱に柱を渡す。凹凸が出来ないように切りかき、組み合わせる。筋交いを入れコーチボルトで締め付ける。
足りない柱は、砂利と岩を入れタコで慣らして追加する。この柱で一本180㎏程ある。切り出して運ぶにはコロも作る必要がある。
長さ3m60cmの柱を縦横に渡して組み込むとしっかりした土台が出来上がる。写真の状態から、さらに柱を横に追加する。
居住空間を作る
大型のパレットからでた柱材のような角材で骨組みを作る。雪が多いエリアではしっかりとした骨組みが必要になる。強度は羽子板を使って補強する。ここまでくれば後一歩で完成だ。
木組みの強度を増すために羽子板と言う建築金具で固定する。この金具も以前作業小屋を製作した時に余った材料なのだ。
3方向から合わさる部分の合わせは難しい。試行錯誤したが複雑になりすぎないようすげ込みを作っていく。素人には限界もあるのだ。
根太と柱を組み合わせるとそれらしくなってきた。少し形になるとワクワク感が増してくる。現実味が出て来るのだ。
ノコギリとノミ、金槌だけで組木をする。どれも高価な道具ではなくホームセンターで売っている安めの物だが、十分機能してくれる。知り合いの大工の作業所で見たものの見よう見まねで作業を進めていく。
①
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③
④
お世話好きな娘は食事当番
何もなければ遊びは自分で考える。生活に必要な物を遊びながら得る。森が与えてくれるものは多くはないが、自然の豊かさが心育むのだ。夏の森でみつけた虫とキノコは娘の冒険の証しだ。
両手いっぱい持ったチタケは去年僕が教えた。「おうどんぱべる?」とうれしそうに持って来た。
ブッシュクラフター 荒井裕介
父、お山の人。40歳の山岳写真家。娘曰く、お山のお家を作ってくれる偉大な猟師。娘は澄空(きよら)、4歳。将来の夢は猟師さん。お菓子とお魚が好き。自称パパッ子。とにかく騒がしい二人です。
捨てられてしまう資源と道具は偉大
工業生産品の梱包用パレットは焼却処分されてしまうのでタダでもらえたが、全てばらして利用するには苦労が伴う。電気がなくても使えるハンドドリルは偉大な道具だ。