【Vol.30】野生食材図鑑 ー全てのフィールドは食料庫であるー

身近な水辺で簡単に釣れる淡水の恵み
川の外道食堂

野生の食材を手に入れる。その方法としてポピュラーなのは、やはり釣り。ひとつの釣り場でいろんな魚が釣れるのも面白いところ。なかでも今回は、特定外来生物に指定されて以来、全国的に駆除が進むなか、食用として再び注目され始めたブラックバスとブルーギルを狙ってみた。

写真・文/相原由和

忘れられた野生の食材外来魚バスとギルを食す

我々の身近には、食味は抜群ながら、なぜか食用にされないものがたくさんある。例えば本誌にもよく登場するアメリカザリガニ。日本で食べることは少ないが、米国南部では郷土料理として一般家庭でも広く振る舞われるおいしい食材だ。

地域や生活習慣によって食の嗜好が異なるのは当然のこと。でも、食べ慣れていないだけのものを、「どうせマズいんでしょ?」などと勝手に思い込み、顔をプイと背けてしまうのはいかがなものだろう。

日本人は魚をよく食べる。しかしほっぺたが落ちるほどウマいのに、現状ほとんど食用にされない魚もいる。2005年に特定外来生物に指定にされ、『害魚』としてのイメージがついてしまったブラックバスやブルーギルがその代表格だろう。

これらは大正、昭和の時代に食用目的で国内に放流されたのが始まり。同じ淡水魚ならマス類にも劣らないほど深い味わいなのだが、残念ながら食用として定着しなかった。皮と浮き袋の付け根に独特の香りがあるため、「生臭い魚」という印象がついてしまったのだ。

現在、全国的に駆除が進められているこれらの魚だが、釣りの対象としてはもちろん、食用としてもう1度見直してみたい。他の魚と同様に、しっかり下処理をしたブラックバス、ブルーギルはめちゃくちゃウマい。

釣って楽しい、食べておいしいブラックバスとブルーギル。それでは、早速その捕獲方法を紹介しよう。

ルアー釣りの道具

道具立てはシンプル。用意するのはブラックバス用ルアー竿、リール、釣り糸のみ。自宅の倉庫で眠っている釣り道具があれば完璧。なければ釣具店で販売されている入門セット(価格は5000円くらいから)がお手頃だ。高価な道具は必要ない。ロッドは、全長6ft6inch(約2m)が汎用性が高い。これにスピニングリールをセットし、ナイロンラインの4~6lbを100mほど巻く。

主な対象魚

ブラックバスとブルーギルは、河川や湖沼のルアー釣りで狙える代表的な魚種。魚食性が強く、同じサイズの魚と比べても格段に引きが強いため、ルアー釣りの対象として人気がある。釣り方はどちらも同じ。ただし現在は特定外来生物に指定され、生きたままでの運搬は法律で禁止されている。食用に持ち帰るときは、現場で確実に締める(鮮度を保つために即死させる)こと。他にもコイ、ニゴイ、ウグイ、マルタ、ハス、ナマズなど雑食性の魚はおよそなんでも釣れる。

ブラックバス

北米原産の淡水魚。1925年に神奈川県芦ノ湖に移入されたのが始まり。厳密にはオオクチバス、コクチバス、フロリダバスに分けられ、ブラックバスはこれらの総称。全長は成魚で40~50cm。元々食用に放流された経緯があり、実はかなり美味な魚。淡白な白身でどんな料理にも合う。

ブルーギル

同じく北米原産の淡水魚。全長15~20cm。1960年に米国から寄贈され、水産庁が食用や真珠養殖を目的に移植したものが繁殖。フライパン料理に最適なサイズがよく釣れるため、北米ではパンフィッシュとも呼ばれる。小型は骨が多いが、肉づきのいい大物はムニエルにすると絶品。

簡単に釣れるのが魅力釣りの入門にもぴったり

では、どのようにしてブラックバスやブルーギルを捕らえるのか。その答えは1つ。釣ってしまうのが手っ取り早い。なかでもおすすめはルアー釣り。釣りというと、道具がたくさんあって、なかなか手を出しにくい印象があるかもしれないが、実はかなりお手軽。というのも、ブラックバスやブルーギルは魚食性が強く、水中で動くものには何でも食らいつく。ルアー釣りは、そんな彼らの習性を利用した釣法といえる。

ルアーとは、小魚や甲殻類などの水生動物を模した疑似餌。ABS樹脂や木材、金属で作られる。この釣りはミミズなどの餌を使わないので、道具や荷物を最小限に抑えられる。釣り竿とリール、釣り糸、そしてルアーがあれば、天然の食材をいとも簡単に捕獲できるというわけ。

詳細は別項で解説するが、ルアーはスピナーと呼ばれるタイプが使いやすい。これはルアー釣りの黎明期である19世紀中頃から現在に至るまで、世界中の釣り師にたくさんの魚をもたらしている定番。その仕組みは、水流を受けると小さな金属板が水中でクルクルと回転し、視覚と波動で魚の捕食本能を刺激するというもの。本当によくできている。

さて、このスピナーの使い方だが、釣り師がやることはリールをゆっくり巻くのみ。これだけで十分な釣果が見込めるのだから驚くばかり。

魚の反応がないときは、竿先をちょんちょんと動かして誘いを入れたり、ルアーを浮かせたり沈ませたり、あるいは泳ぎの速度を変えたりと自分なりにアレンジすると面白い。魚がいる場所にルアーを投げ込めさえすれば、ブラックバスやブルーギルを釣るのはそれほど難しくない。

ルアーの投げ方

ルアーを投げる動作をキャストという。この釣りでは、魚がいる場所までルアーを飛ばす必要があるため、キャストは魚を釣るための基本動作といえる。その方法は以下の通り。まずは人差し指の指先に釣り糸を掛け、リールのベールアーム(ラインのストッパー)を起こす。これで釣り糸が自由に放出される状態になる。次に竿を振りかぶったら、前に向かってシュッと振り抜く。ルアー竿は弾力のあるカーボン製が主流。軽く投げるだけでも、ルアーはよく飛んでくれる。

その1

竿先からルアーまで釣り糸を20cmほど垂らし、釣り糸を人差し指に掛けてベールを起こす。

その2

竿を背後に振りかぶる。ルアーを落としたい場所に視線を合わせると狙い通りに投げられる。

その3

前方に軽く振り抜く。釣り糸を掛けた指先に重みを感じたら、素早く放してルアーを飛ばす。

おすすめルアー

釣具店に行くと、ブラックバスやブルーギルを狙うためのルアーがたくさん発売されている。どれを買えばいいのか迷うところだが、おすすめはスピナーと呼ばれるタイプ。1つ500円前後と安価なこと。リールを巻くだけで魚を誘えること。大小を問わずいろんな魚が釣れるのがその理由。河川や野池で釣るなら、4g前後が使いやすいだろう。なお、実際に釣りをしていると、釣り糸が切れてルアーをなくすことがある。そのため、予備のルアーをいくつか用意しておきたい。

こちらは記者が以前釣った23cmのブルーギル。スピナーはスミスのニアキス4g。各社からいろんなモデルが発売されているので、使い比べてみるのも面白いだろう。

スピナー

使用したのはフランスのメップスから発売されているアグリア No.1(3.5g)。これ1つあれば、15〜20cmのブルーギルから50cmを超えるブラックバスまで釣れる。

ブラックバスは、この大きな口が特徴的。水中で動くものは何でも食らいつく。

慣れてきたら、他のルアーも使ってみたい。写真はスプーンと呼ばれるルアーの元祖。

河川・野池のポイント

この時期、ブラックバスやブルーギルは、餌となる小魚を求めて岸際の浅場に集まる。スピナーのようにキラキラと輝き、魚を遠くから惹き寄せる効果のあるルアーで、以下のような場所を探ってみよう。なお、魚のアタリがない(釣れない)ときは、同じ場所でルアーを投げ続けるより、足を使って釣り場を広く探索しながら(攻める場所を変えながら)釣り歩くのが効率的だ。

岸際

ここも釣りの絶好ポイント。壁際や、付近の水深が深くなっている場所をゆっくり引いてみよう。

アシ

水際にアシが生えていたら狙い目。水生昆虫や両生類、小魚を捕食するために中〜大型が集まる。

深場

消波ブロックの近くなど水深のある場所は魚が定位しやすい。コイの群れに交じっていることも。

障害物

ブラックバスやブルーギルは障害物を好む。水中にある杭や岩、倒木、橋脚を見つけたら探ろう。

魚は身近な水辺にいる釣って食べて至福の時を

釣りをするうえで守るべきマナーはいくつかあるが、アウトドアを愛する読者の皆さんに改めて説明するまでもないので、細かな点については省略する。基本的には、普段の山遊びや水辺の遊びと同じだ。

釣りにおいて特別なのは、内水面の河川や湖は漁協が管理しているケースが多く、その場合は釣りをするのに遊漁券が必要なこと。また、ブラックバスやブルーギルは特定外来生物に指定されており、生きた状態で運搬することはできない。他にも、自治体によっては釣った外来魚の再放流(リリース/その場で逃がすこと)を禁止している場合がある。この3点には留意しておきたい。

さて、お楽しみの実釣体験は、抜群の魚影を誇る山梨県の山中湖湖畔で行った。釣り方は簡単そのもの。ブラックバスやブルーギルが潜んでいそうな物陰を狙い、スピナーを投げてはゆっくり巻くを繰り返しただけ。夕方までの釣果は、35㎝前後のブラックバスが2尾。夕食のおかずと晩酌のつまみには十分だ。釣った魚は、氷締めにして持ち帰る。あとは釣った魚を食べるのみ。身近な自然の恵みを味わい尽くす。

ブラックバスとブルーギルは、山中湖などの自然湖の他、自転車で行ける近所の河川や野池にも潜んでいる。インターネットで検索すると、地元で釣れるポイントがすぐに見つかるはず。身近な場所で釣れるうえ、食べておいしい魚たち。皆さんもぜひ狙ってみてはいかがだろうか。

釣った魚の下処理

「ブラックバス、ブルーギルは生臭い」といわれるが、その原因は皮と浮き袋にある。これらを取り除けば、淡白な白身を存分に堪能できる。おいしく食べるには下処理が重要なのだ。なお、魚を持ち帰るときはナイフで動脈を切って活け締めにする他、水と氷で満たしたクーラーボックスに入れると、全体が満遍なく冷えて氷締めの状態になる。鮮度を落とさずに持ち帰りたい。

手順1

ウロコを落とす

熱湯を注いで、ウロコを立てる。包丁の背で、尾から頭に向かって魚体を撫でると簡単に取れる。

手順2

頭を落とす

頭の後ろから背骨を断つ。胸ビレと腹ビレに沿って切り込みを入れ、頭を引くと内臓ごと取れる。

手順3

浮き袋を取る

三枚におろし、臭みの元になる浮き袋の残りを包丁ですき取る。一緒に腹骨を取ると食べやすい。

手順4

皮を引く

臭いの原因である皮を引く。皮と身の間に包丁を入れて、皮を左右に引っ張りながら剥ぐと簡単。

ブラックバスを食べる

実釣で釣れた2尾のブラックバスを調理する。繰り返しになるが、ブラックバスやブルーギルは、「一応食べられる」というレベルではなく、お世辞抜きにめちゃくちゃウマい。別項で解説したように下ごしらえは必要だが、海の高級魚であるスズキに似た上品な味わい。ここで紹介する調理法以外にも、ムニエルや天ぷら、お酒のつまみにはフィッシュ&チップスもおすすめだ。

ブラックバスの空揚げ

ブラックバス料理の定番、空揚げ(唐揚げ)。塩とコショウを控えめにすることで、脂の乗った白身の風味を堪能できる。ただ、切り身に皮や浮き袋の取り残しがあると臭みが出るので注意したい。調理前に腹骨をすき取り、背の小骨を骨抜きで抜いておくと食べやすくなる。超ウマい!

中温で揚げる

一口サイズに切った身に塩とコショウを振り、両面に片栗粉(小麦粉でも可)をまぶす。中温(180度)の揚げ油に入れて、そのまま表面がこんがりするまで揚げる。油を切ったら出来上がり。

サクサクの食感

揚げたてはサクサクッとした歯ごたえで、1度食べたらやみつきになる。晩酌のつまみにも最適。

ブラックバスの煮魚

煮魚に用いたのは35cmほどのブラックバス。このくらいのサイズになると身がたくさん取れるので食べ甲斐がある。釣魚は市販の魚よりも鮮度が格段にいいため、できれば薄味でいただきたい。煮魚は、煮汁が冷えていくときに味が染み込む。好みに合わせて調味料を調節するといい。

中火で煮る

鍋に水(身が浸らない程度)、みりん大さじ1〜2、砂糖大さじ2〜3、醤油大さじ2を入れる。煮汁が沸騰したら、切り身を入れて中火で15〜20分ほど煮る。ときどき、おたまで煮汁をかける。

脂の乗った白身

晩ご飯のおかずにぴったり。みりんの代わりに日本酒、甘めが好きなら砂糖を増やしてもいい。