野営エキスパートスキルズ
費用対効果は?だが確かに暖かい寝床
野外活動において、寝床の構築に掛かる時間とその効果を考えると、ある程度文明の利器を使って、素早く手軽に済むものが有効である。ただし、時にはこの世の原理を考え、試行錯誤してそれを手の内にするのも面白い。
ここで紹介するスキルは、そんな原理を利用して暖かい寝床を得るための一例だ。チムニードラフトベッド。その名の通り、地中に煙突を作って焚火の煙を寝床の下に引き入れる床暖房技術である。作り方にはいくつかのバリエーションがあるが、今回は穴を掘るだけでできる最も簡単な構築法を紹介する(詳細は次項)。
制作にあたって何よりポイントとなるのは、如何に煙の流れを作るか、である。それができなければ煙は火床から立ち上るだけで、ただ焚火の近くで寝ているのと変わらない。ここでは人類の英知である内燃機関のディテールを取り入れている。
まず吸気口はキャブレターに見られるファンネル状(漏斗状)とし、火床へ空気を導く形状とした。続いて燃焼室から煙突に向かってベンチュリ(絞り)を作り、煙の流速を上げている。最後にチャンバー(膨張室)を設け、一気に煙が流れ出すような工夫を取り入れている。
果たしてこれが上手く機能するのかと言えば、写真の通り、暖かい煙が長いトンネルを通って寝床の足元から勢いよく飛び出している。が、ここに至るまでは幾度もの試行錯誤があったことも記しておきたい。現場で作る寝床は自身の知識の集大成であり、睡眠時間を削るのである。
EXPERT SKILL
CHIMNEY DRAFT BED[チムニードラフトベッド]
無駄に時間をかけても構築したい
先進的野営基地の作り方[冬仕様]
ひと工夫でチムニードラフトベッドに移行できる
[火床]の作り方
チムニードラフトベッドを作るために必要な作業は、前項の細かな工夫を抜きにすると、火床から寝床の下まで穴を掘るだけである。トンネル状にしなければならなため、穴の上には丸木を敷き、最後に土をかぶせるだけだ。チムニードラフトベッドへ移行させるには火床にフタをして煙を寝床まで流せば良い。それまでは通常の焚火として使うことができる。
01 まずは寝床の下を通る大きな穴と火床となる小さな穴を掘る。寝床の下の穴は膨張室とするため、大きめに掘っておくと成功率が上がる。
02 続いて火床の穴と寝床の穴を繋げる。煙の流速を上げるために今回は細めに作った。野営地に合わせて、火床と寝床を直線に並べても良い。
03 今回は一度穴を掘ってから丸木を敷いてトンネル状とした。丸木は生木か濡れた木にしておかないと、火床から延焼する可能性があるので要注意。
04 先の丸木に土をかけることで、煙が逃げず流速が上がり、トンネルまで火が広がることを防いでいる。火床近くは土を多めに持っておくと安全。
05 寝床も同じように丸木を敷いておく。チムニードラフトベッドにした際、このままの方が煙の暖かさを感じられるのだが、自身が燻製になる。
あとは焚火にフタをするだけでチムニードラフトベッドが完成
ルーフからウォールまで変幻自在のシステム
[ブッシュパネル]の作り方
ロゴスが開発したあの「パネルシステム」をブッシュクラフトで再現。屋根にもなり、壁にもなるため、これさえ作っておけば様々な野営基地を構築することができる。作り方は至って簡単で、木の枠に草木を詰め込んでいくだけである。
01 適当な大きさで木の枠を作る。木の枠の接続にはパラコードを使い、クローブヒッチを用いたラッシング(十字に紐を巻いて締める)を採用した。
02 先ほど作った木の枠に、草木を詰め込むための軸を長い枝を用いて作っていく。軸の数はできるだけ多い方が良く、しなりのある枝を使うと良い。
03 軸を並べたら、それを巻き込むようにパラコードで木枠を囲っていく。1本1本できるだけ強く締め込んでいくと、木枠の剛性が上がる。
04 軸は木枠からはみ出ないようにノコギリで切っておくと良い。切りすぎると木枠を立てた際に軸が外れてしまうので注意が必要だ。
05 木枠を立てて、軸の間に長めの枝、細かい枝を順に差し込んでいく。多少軸がしなるくらいきつめに差し込むと、木枠の剛性がさらに上がる。
06 ある程度枝を差し込んだら、最後は草木を隙間に詰め込んでいけば完成。ちなみに枝葉の使用はキャンプ場に許可を得てから行うこと。
風もしっかり防いでくれるブッシュパネルが完成!
耐荷重に優れた背もたれ付き薪置き場!?
[ファイヤーウッドチェア]の作り方
ブッシュクラフトにおいてチェアのバリエーションは多く、トライポッドを使ったものが一般的だ。ここでは立木のある野営地を想定し、耐荷重性に優れた背もたれ付きのチェアの作り方を紹介しておこう。座面の丸木はあえて固定せず、薪として使えるようにしておくと便利。
骨格は、末端をロープで結んだ長めの丸木で立木を挟み、それを十字に組んだ短めの丸木で支えるだけの構造。短めの丸木は先端を尖らせて地面に差し込んでおく。あとは薪を座面に載せるだけだ。
POINT01.漏斗形状にして吸気口率を上げる
過去に特集した炭焼きの「伏せ焼」時に、吸気口を斜めに空けていたことから発想。火床にただ穴を空けて空気を引き入れるだけでは煙は流れなかった。
POINT02.燃焼時間を伸ばすためのフタ
火床をトンネル状とするためのフタには濡れた丸木を用いた。これがいずれ乾き、崩れ落ちで薪となる。吸気口も塞がれるが、ここからが「伏せ焼」となる。
POINT03.伏せ焼状態で暖かさが続く
トンネルが崩れて極小の空気で薪が燃える「伏せ焼」状態となっても煙は暖かい。盛大に燃焼せず種火が火床に留まるため、安全でもある。
POINT04.自身が燻製になる心配はない!?
煙の排気口は差掛けシェルターに掛からない位置として、風とともに外方向へ運ばれる。ゆえにシェルター内に煙臭さはなく快適に過ごせる。