【vol.27】酷道299号

ドライブするだけで命に危険が迫る国道をご存知だろうか。「国道」と聞けば、生活道路よりも道幅が広く、きちんと整備されている道をイメージしがちだ。しかし、全国にはそんな常識を根底から覆す、とんでもない国道が数多く存在する。そんな危険でエキサイティングな国道のことを、我々は“酷道”と呼んでいる。

今回の酷道

春のドライブに最適!首都圏から最も近い酷道
長野県南佐久郡佐久穂町〜群馬県多野郡上野村

首都圏で暮らす酷道ファンにとって最も不便なのは、近くに酷道がないことだ。インフラ整備が進む都市圏ほど酷道は姿を消しているが、特に東京を中心とする首都圏には、酷道は一切存在しない。国道が快適で安全な道路として整備されればされるほど、我々酷道ファンの楽しみは失われてゆく。
 
そんな首都圏から最も近い酷道が、今回ご紹介する299号線だ。長野県を起点とし、埼玉県に至る延長195キロの国道だが、長野と群馬の県境付近が酷道区間となっている。
 
長野県側から走ると、国道141号線から分岐し、線路を越えたあたりから山間部へと入っていく。さらに20分ほど走っていると、いきなりセンターラインが消えた。そして、このタイミングで対向車がやってきた。バックしてやり過ごしたが、いきなり酷道の洗礼を受けて、幸先の良いスタートとなった。
 
これからしばらくの間、狭隘路と急カーブが連続する。山間部の酷道ではありがちなパターンだが、この酷道299号線には、これ以外にも特筆すべき特徴があった。
 
その特徴というのが、交通量だ。いきなり対向車の洗礼を受けたように、ひっきりなしに対向車がやって来る。車だけではなく、バイクも多い。バイクが対向してきた場合、離合は容易なのだが、猛スピードでカーブの向こうから突っ込んでくるため、心臓に悪い。首都圏から最も近い酷道というだけあって、ドライブやツーリングに訪れる人が多いようだ。
 
何度もバックして対向車をやり過ごし、何度も急ブレーキでバイクを回避して、ようやく群馬県との県境である十石峠(じっこくとうげ)に到着した。峠の標高1351メートル。昔はこの峠を越えて10石の米を運んでいたことから、十石峠の名が付けられたといわれている。
 
交通量が多いためか、酷道にしては珍しく、峠にトイレや展望台が設置されていた。駐車場に車を停めて、展望台の螺旋階段を登ってみた。
展望台からの眺めは、山山山…
 
深い山あいにあるので当然といえば当然なのだが、緑の山しか見えない。展望台の意味があるのかどうか、疑問を感じる微妙な眺めだ。
 
峠を越えると、長野県から群馬県に入る。いよいよ関東圏だ。県境を越えると道路の整備状況が変わるのが“酷道あるある”だが、特に目立った変化はない。群馬県側も、相変わらず酷い道が続く。
 
生い茂る木々の緑が空を覆い隠し、その間から木漏れ日が射し込んでいる。緑のカーテンとまだらな影を映し出す路面のコントラストが、目に優しい。
 
少し広い場所に車を停めて観察していると、次々と車やバイクが通過していく。この交通量の多さがまた、酷道ぶりに拍車をかけている。
 
毎年4月上旬には冬季閉鎖が解除される。これからの時期、少し遅い十石峠の春を感じながらのドライブやツーリングは最高だろう。たまには趣向を変えて、休日に酷道へ繰り出してみてはいかがだろうか。ただし、対向車には十分注意してほしい。

ツーリングのバイクも多く、対向して来たり、後ろから追い越されたり。

展望台からの眺めは、山と走ってきた道のみ。

鹿取茂雄

酷い道や廃れた場所に魅力を感じ、週末になると全国の酷道や廃墟を旅している。2000年にWEBサイト「TEAM 酷道」をスタート。徐々に仲間を増やしながら活動を続けている。
http://www.geocities.jp/teamkokudo/