【vol.28】酷道417号

ドライブするだけで命に危険が迫る国道をご存知だろうか。「国道」と聞けば、生活道路よりも道幅が広く、きちんと整備されている道をイメージしがちだ。しかし、全国にはそんな常識を根底から覆す、とんでもない国道が数多く存在する。そんな危険でエキサイティングな国道のことを、我々は“酷道”と呼んでいる。

今回の酷道

国道が途切れている林道が結ぶ分断酷道
岐阜県揖斐郡揖斐川町〜福井県今立郡池田町

岐阜県北西部に、日本最大の徳山ダムがある。東海3県の水がめとして、2008年に完成した。地図を眺めていると、徳山ダムがある揖斐川に沿って、1本の道が伸びている。国道417号線だ。
 
国道を北に向かってなぞっていくと、ダム湖を過ぎたあたりで急に途切れる。そして峠を越えて福井県に入ったところで、再び国道417号線が復活する。このように、部分的に途切れた国道は“分断国道”と呼ばれる。峠部分が未開通のまま残るケースが多く、酷道の特徴といえるだろう。
 
国道417号線の分断区間7.6キロは、林道によって接続されている。国道としては分断されているが、道はつながっているので、通り抜けることが可能だ。
 
実際に岐阜県側から走っていくと、徳山ダムの手前から高規格な道が続く。ダムの建設に伴い、本来の国道417号線が湖底に沈んだため、新しく付け替えられた区間だ。
 
ダム湖をまたぐ巨大な橋や、排気ファンを備えた長いトンネルが連続し、まるで高速道路を走っているようだ。
 
ところが、トンネルを抜けると、様子が一変する。直角にカーブすると同時にセンターラインが消え、2車線が1車線になってしまった。ダム湖を過ぎて穏やかな流れとなった川に沿って、狭隘な道が続く。
 
道が川から離れて山を登りはじめる地点で国道は一旦終了する。ただし、道路はそのまま続いていて、これより先は塚林道となる。普通に走行していると、どこまでが国道でどこからが林道なのか、全く分からない。路面の状態や道幅も、大差がない。
 
塚林道に入ると、急な上り坂とカーブが連続し、みるみる標高が上がる。ガードレールなど、もちろんない。
 
ところどころで視界が開けると、山の斜面を削り取っただけのダイナミックな道路の姿を見ることができる。もしもコースアウトしたらどこまで落ちるのか、よく分かる光景だ。
 
最高地点となる冠山峠に近づくと、雲の中に入ってしまった。目の前が真っ白で、急激に視界が悪くなる。道を踏み外さないように、より一層気を引き締めて運転しなければならない。
 
冠山峠に着くと、道路が少し広くなっており、何台か駐車するスペースがある。公衆トイレも設けられているが、このトイレがものすごく不気味で、用を足すには少し勇気がいる。
 
峠を過ぎて福井県に入っても、道の状態はあまり変わらない。しばらく走っていると冬季閉鎖用のゲート現れ、ここから再び国道417号線に復帰する。
 
近年、国道417号線の酷道区間と分断区間を長大トンネルでぶち抜く“冠山峠道路”が着工された。この道路が完成すれば、分断国道は解消され、同時に酷道は消滅する。完成予定は2025年。

徳山ダムが完成する以前から観察を続けてきた酷道が姿を消すのは残念だが、便利な道に生まれ変わり、多くの人に利用されて道として本来の用途を果たすようになれば、本望だ。

冠山峠の周辺は“天空の道”とでもいうべき風景が続く。

冠山峠にある公衆トイレ。これは少し勇気がいる。

鹿取茂雄

酷い道や廃れた場所に魅力を感じ、週末になると全国の酷道や廃墟を旅している。2000年にWEBサイト「TEAM 酷道」をスタート。徐々に仲間を増やしながら活動を続けている。
http://www.geocities.jp/teamkokudo/