ドライブするだけで命に危険が迫る国道をご存知だろうか。「国道」と聞けば、生活道路よりも道幅が広く、きちんと整備されている道をイメージしがちだ。しかし、全国にはそんな常識を根底から覆す、とんでもない国道が数多く存在する。そんな危険でエキサイティングな国道のことを、我々は“酷道”と呼んでいる。
今回の酷道
棚田と秘境を巡る地元密着型の酷道
新潟県上越市〜長野県下水内郡栄村
新潟県から長野県を経て、群馬県に至る国道405号線。3県を跨いでいるが、その存在を知る人は少ない。長野県と群馬県の県境付近は未開通のまま途切れ、地元住民が生活に利用する以外、走行する人はほとんどいない。
今回、私は日本海に面した新潟県上越市からスタートし、国道が途切れる長野〜群馬県境を目指した。国道405号に入るや、いきなり酷道になった。山村の集落を抜ける道は、オニギリ形の国道標識がなければ、ただの生活道路にしか見えない。上越市船倉の集落に入ると、美しい棚田が広がっていた。小さな棚が幾段にも連なる田んぼに目を奪われて、思わず車を停めて見入ってしまった。こうした風景との出会いもまた、幹線道路では味わうことのできない酷道の魅力だろう。
山に入っても集落が点在し、生活道路として機能している。対向車に注意しながら、慎重に運転する。十日町市の松之山地区に差しかかると、またもや美しい棚田が目に飛び込んできた。先ほどの船倉の棚田よりも規模は小さいが、山の上の棚田は、まるで絵画のような趣がある。これまで、酷道沿いの棚田を見る機会は何度もあったが、こんなにも美しい棚田と出会ったのは、これがはじめてだった。私の週末は、酷道・廃墟・秘境・事件現場めぐりの趣味でとても忙しいというのに、そこに“棚田巡り”が加わる日も近いかもしれない。そんなことを考えながら車を走らせていると、道幅が狭くなってきた。今だけは棚田のことは忘れて、運転に集中することにしよう。
新潟県内の“最狭区間”を過ぎ、津南町の市街地が近づいてくると、急激に道が良くなった。久々に見るセンターラインが、とても新鮮に映る。国道117号との重複区間を経て、しばらく快走路が続く。長野県との県境が迫ってくると、道は再び酷道と化した。川沿いで道幅が狭く、対向車との離合が困難なため、定期的に待避所が設けられているものの、ガードレールは設置されていない。いつでも川に転落できる環境が整っている。対向車は決して多くないが、路線バスが運行されていて、大型バスが対向してくる可能性もある。運転には、細心の注意が必要だ。
心細い山道が続くが、長野県に入ると温泉の表記が増えてきた。多くの温泉を擁する秘境・秋山郷だ。秋山郷は“日本の秘境百選”に選ばれているが、残念ながら国道からは秘境らしい景色を感じ取ることはできなかった。そして、ここ秋山郷で国道は途切れている。通常であれば来た道を引き返すのだが、延々と走ってきた道のりを、また走るのかと思うと気が遠くなってしまう。
日が落ちて暗闇が迫るなか、ここは賭けに出ることにした。うっすらと地図に書かれている林道を経由し、志賀高原に抜けることにしたのだ。この選択が吉と出るか凶と出るか。自宅に到着するのが翌日になるとは、この時点では知る由もなかった。
コンパクトカーでギリギリの道幅しかない最狭区間。
まるで絵画のような趣のある留守原の棚田。
鹿取茂雄
酷い道や廃れた場所に魅力を感じ、週末になると全国の酷道や廃墟を旅している。2000年にWEBサイト「TEAM 酷道」をスタート。徐々に仲間を増やしながら活動を続けている。
http://www.geocities.jp/teamkokudo/