【vol.30】酷道388号

ドライブするだけで命に危険が迫る国道をご存知だろうか。「国道」と聞けば、生活道路よりも道幅が広く、きちんと整備されている道をイメージしがちだ。しかし、全国にはそんな常識を根底から覆す、とんでもない国道が数多く存在する。そんな危険でエキサイティングな国道のことを、我々は“酷道”と呼んでいる。

今回の酷道

電柱も宙に浮く落石多発の酷道
宮崎県延岡市〜熊本県球磨郡湯前町

徹夜で運転し、途中、四国で登山しながらようやくたどり着いた九州。宮崎県延岡市で体力の限界を感じ、夜を明かした。
 
翌朝、まだ暗いうちに出発し、向かったのは国道388号線だった。国道388号線は、延岡より少し手前の佐伯市を起点とし、熊本県球磨郡湯前町へと至る一般国道だ。前日、起点となる佐伯駅前まで寄り道をして、388号線をしっかりとトレースしてきた。但し、“酷道”と呼べるのは、まだ先の区間だ。あいにくの雨模様だったが、酷い道には酷い天気がよく似合う。ただでさえ酷い道が、より酷い状態で楽しめてしまうのだから、雨や雪といった過酷な環境こそが“酷道日和”というものだ。
 
延岡からは、国道10号線との重複区間となる。門川町で10号線と離れると、いよいよ山間部へと入ってゆく。しばらく緩やかな道が続いていたが、秘境として名高い椎葉村に入ると、いい感じに道が酷くなってきた。九十九折に狭い道幅、酷い路面。まさに、酷道の魅力のオンパレードだ。大河内峠が迫ってきた時、驚愕の光景が目に飛び込んできた。

電柱が宙に浮いている!

そんなことが実際にあるものかと、目を凝らしてよく見たら、鉄筋だけがつながっていた。落石が電柱に直撃したらしく、コンクリートが完全に破壊され、かろうじて鉄筋だけで立っている状態。環境の過酷さを物語っている。
 
この国道388号線、九州にしては珍しく、冬には積雪で通行止になることもある。夏には落石や土砂崩れも多発する、過酷な道だ。大河内峠を過ぎて山を下ると、久々に集落が現れた。ずっと山道を走っていると、人家を見るとホッとする。この集落のあたりで、国道265号線と合流した。ほんの数キロほどではあるが、こんな山深い場所で2つの国道が重複するなんて珍しい。重複するといっても、どちらも酷道であり、道の状態に大差はない。そして、こんな場所で大型車が対面からやって来た。これまで、対向車とほとんど出会わなかったというのに、よりによって大型車が来るとは。バックしてやり過ごしたが、酷道マニアにとっては嬉しいハプニングだ。
 
国道265号線と別れ、再び国道388号線の単独区間へ入ると、間もなく熊本県との県境・湯山峠だ。宙に浮く電柱のようなモニュメントはないが、ずっと道幅が狭く、普通に酷い。地味に酷い道を走っていると、久しぶりに視界が開けた。見えるのは、山々と木々のみだが、悪天候がもたらす靄が神秘的な光景を作り出していた。やはり酷道は雨の日に限る。
 
山を下り市街地が現れると、間もなく国道の終点・湯前町だ。このあたりには温泉も湧いている。疲れた体に温泉は最高だが、そんな暇はなかった。これから鹿児島まで移動し、山奥で出会ったあの国道265号線を全線走破するためだ。酷道マニアは、道や天候だけではなく、行程も酷いのが好きらしい。

道幅ギリギリで地味に酷い道が続く。

こうした神秘的な光景が見られるのも、悪天候ならでは!?

鹿取茂雄

酷い道や廃れた場所に魅力を感じ、週末になると全国の酷道や廃墟を旅している。2000年にWEBサイト「TEAM 酷道」をスタート。徐々に仲間を増やしながら活動を続けている。
http://www.geocities.jp/teamkokudo/