ドライブするだけで命に危険が迫る国道をご存知だろうか。「国道」と聞けば、生活道路よりも道幅が広く、きちんと整備されている道をイメージしがちだ。しかし、全国にはそんな常識を根底から覆す、とんでもない国道が数多く存在する。そんな危険でエキサイティングな国道のことを、我々は“酷道”と呼んでいる。
今回の酷道
倒木が行く手を阻む夜の酷道で悪戦苦闘
山形県東置賜郡高畠町〜鳩峰峠付近
酷道は幹線道路と異なり、通行止の情報が出ていなくても、実際に行くと走れないことがある。落石等が発生しても、判明するまでに時間がかかるからだ。実際、土砂崩れが発生した直後に通りがかり、引き返したこともあった。
酷道は山間部に多く、引き返して別のルートで目的地に向かうと大幅なロスになる。なるべくなら、引き返さずにクリアしたいところだ。そのため、私は様々な装備を酷道に持って行くようにしている。
軍手や作業着はもとより、ショベル、土のう袋、ノコギリ、牽引ロープなど。予備ガソリンもあれば心強い。こうした装備は、いざという時に役立つほか、困っている人を助けることもできる。
今回訪れた国道399号線は、山形県と福島県を結び、県境の鳩峰峠付近は南東北屈指の酷道となっている。すっかり日が暮れていたが、せっかく近くまで来たので立ち寄ってみることにした。
まだ夕食を摂っていなかったが、少しだけ見たら帰ろうと、軽い気持ちで車を走らせていた。まだ11月とはいえ、標高の高い峠では雪も心配だ。スタッドレスタイヤを装着しているが、当然ながら万能ではない。
市街地を離れて山間部に入ると、センターラインが消えて、路面がうっすら白くなった。少し不安になってきたが、先人が残したタイヤの跡があるので、大丈夫だろう。こんな時、タイヤの跡はとても心強い。
暗闇のなかを順調に走っていたが、行く手を阻む倒木が現れた。右手の斜面から落ちてきたとおぼしき樹木が、道路を完全に塞ぐように横たわっている。先人はここで諦めたようで、タイヤの跡は倒木の手前で全てUターンしていた。倒木は1本だが、根元で2本の幹に分岐している。幹の直径は20センチ程度。これぐらいならと思い持ち上げてみたが、ビクともしなかった。
これがもし大木だったら諦めていたかもしれないが、こんな細い倒木で諦めるのは癪に障る。車の装備を確認するが、あいにくノコギリは積んでいなかった。使えそうな道具は、ナタぐらいだ。
ここから一人、倒木との闘いが始まった。暗闇の中、倒木にナタを振り下ろす音だけがこだまする。角度をつけて、少しずつ倒木をえぐっていく。1本目の切断に成功し、2本目の作業に取りかかる。結構いい運動になるので、汗が滲んできた。
作業開始から20分、行く手を阻んでいた倒木を除去し、ついに開通させることに成功した。喜ぶのも束の間、ここから先にタイヤの跡はない。これまで以上に路面状態に気をつけながら、慎重に進む。
鳩峰峠に近づくにつれて積雪がぐんぐん増えてきた。そろそろ限界かと思い始めていた時、車からの景色が一変した。ガードレールがなくなったのだ。同行者もいないしここでハマったら人様に迷惑をかけてしまう。それに、腹も減っていた。今回はここでおとなしく引き返すことにした。酷道の旅に、無理は禁物だ。
ナタで少しずつ切り進めていく。この程度の幹ならナタで何とかなる。
倒木はクリアしたが、轍のない道は非常に心細い。積雪も車高に迫る勢いになってきた。
鹿取茂雄
酷い道や廃れた場所に魅力を感じ、週末になると全国の酷道や廃墟を旅している。2000年にWEBサイト「TEAM 酷道」をスタート。徐々に仲間を増やしながら活動を続けている。
http://www.geocities.jp/teamkokudo/