ドライブするだけで命に危険が迫る国道をご存知だろうか。「国道」と聞けば、生活道路よりも道幅が広く、きちんと整備されている道をイメージしがちだ。しかし、全国にはそんな常識を根底から覆す、とんでもない国道が数多く存在する。そんな危険でエキサイティングな国道のことを、我々は“酷道”と呼んでいる。
今回の酷道
酷道マニアも拒絶する?酷すぎる酷道
大阪府東大阪市〜奈良県生駒市
酷道マニアの若者に「暗峠に行こう」と声をかけたところ、すぐに飛んで来たが、どうも言動がおかしい。
「それよりもお寺に行きましょう」
「今なら薔薇が見頃の場所が……」
こちらは酷道に誘っているのに、どうも腑に落ちない返答だ。問い詰めたところ、以前に暗峠を訪れたことがトラウマになっていて、もう二度と走りたくないのだという。酷道マニアも拒絶する酷道とは、いったいどんな道なのだろうか。
暗峠は、国道308号の大阪と奈良の県境に位置する。国道自体は大阪と奈良を最短で結ぶ主要道路であり、一部は高速道路の第二阪奈道になっている。この第二阪奈道と並行している街道筋に、暗峠は存在する。
交渉の末、若者の車を使わない・運転させない・大阪府側から入ることを条件に、何とか説得に成功した。今いる奈良県から第二阪奈道で大阪府に入り、酷道308号で奈良に帰ってくるという作戦だ。
308号を走りはじめると、近鉄奈良線のガード下を潜ったあたりから急激に道がおかしくなる。道幅があまりに狭いため、反対方向からの一方通行になっていた。
一方通行区間を迂回して本線に戻ると、ここが本当に国道なのか、にわかに信じがたい状態だった。道幅は1車線ギリギリで、住宅の軒先をかすめるようにして車が走って行く。対向車との離合はおろか、自転車や歩行者をかわすことすら出来ない。また、路面はアスファルトではなくコンクリートで、経験したことがないような激しい上り坂だ。若者は、この急斜面を下った時のことがトラウマになったのだという。
「これ、下りだったらブレーキが効く気がしないし、急ブレーキ踏んだら前に転がりそうでしょ?」
確かに、若者の言う通りだ。
住宅街を抜けても強烈な上り坂が続き、所々に空転した車のタイヤ痕が残されている。道幅も相変わらずで、離合スペースもなく、心細い。
手に汗にぎるドライブを楽しんでいると、目的の暗峠に到着した。峠付近は石畳になっていて風情があるが、非常に走りにくい。
峠には一軒の茶屋があって、一息つくことができた。昔の旅人ほどではないが、峠を越えることがいかに大変なことで、峠の茶屋の存在がいかにありがたいものか、現代に伝えている貴重な生き証人だ。
お尻に根っこが生えないうちに先を急ぎ、奈良県側へと入る。道の状態は相変わらず酷いが、心なしか勾配は緩やかだ。久しぶりに現れた国道標識(通称オニギリ)は茶色く錆びつき、焼きオニギリになっていた。
峠を下りながら、私は既に再訪することを考えていた。今回、本当に酷い場所では物理的に車のドアを開けることができず、うまく撮影できなかった。それに、あの茶屋にもう一度行きたいし、できれば奈良県側から入ってみたい。
唯一問題があるとすれば、若者をどう説得するかだ。まだ打診していないが、再訪の日は近いだろう。
普通車でギリギリの道幅しかなく、とても国道には見えない。
道のいたる所に、空転した車のタイヤ痕が残されていた。
鹿取茂雄
酷い道や廃れた場所に魅力を感じ、週末になると全国の酷道や廃墟を旅している。2000年にWEBサイト「TEAM 酷道」をスタート。徐々に仲間を増やしながら活動を続けている。
http://www.geocities.jp/teamkokudo/