【vol.28】にわとりのいる暮らし No.9

タンポポが、すこし前に死んだブラックと同じ状態になった。墜卵症と思われる。羽はボサボサ、ビッコを引いて、エサも食べない。ミミズだけは食べる。ニワトリも病気に効く薬のような食べ物を知っているのかもしれない。

最初、六羽いた初代は現在三羽。タンポポをつぶせば二羽になる。ひととき、不調だったパープルは元気になった。ときどき卵も生んでいるようだ(あまり旨くはない)。

微妙に元気がなくなったときに、すぐつぶせばよかったのかもしれない。なんとなく踏ん切りがつかなかった。登山で留守にするときに、帰ってくるまで生きていてくれと思う。死んでしまうと肉が臭くて食えなくなるからである。これもペット愛だ。

山から下りて一日暇になったので、お湯を沸かした。庭にタンポポの姿を探すと、ウッドデッキの下でうずくまっていた。捕まえても抵抗しない。これまでは子供たちがいるとき、いっしょにニワトリをつぶしてきた。タンポポにその時間は残されていないようだ。頭を右手の指に挟み、左手は足を持って、ニワトリを伸ばすように引っ張って、クビをひねった。抵抗はまったくない。

そのまま、クビに包丁を入れて、頸動脈を切る。血が勢いよく吹き出し、ズボンに跳ね、地面を濡らす。血が染み込んだ土をニワトリたちがつつく。

血抜きの過程で、二回暴れたものの、静かになった。

沸かしていたお湯につけて、羽を抜く。若鶏を捌くときとは違って、垢染みた臭いが湯気といっしょに立ちこめてくる。ニワトリにも加齢臭があるようだ。お湯はちょっと熱すぎるかな、と思うくらいのほうが、羽は抜きやすい。

哺乳類を解体するのに悩むことはなくないが、鳥はせいぜい一〇羽ほどしか捌いていないので、まだよくわからない。おそらく内臓に疾患があるだろうから、膿などを肉に付けないようにしなくてはならない。消化器官の周辺を開くと、体腔内に卵の黄身のようなものが散っていた。やはり卵管が破けたようだ。硬くなった黄身の残骸をウッドデッキに投げると、別のニワトリたちが飛びついてくる。病原菌の疾患ではないので、食べさせても、まあ、大丈夫だろう。

腸がつまり、膨らんで、硬くなっていた。人間なら腸閉塞だろうか。排泄がうまく行っていなかったのだ。これはかなり痛かったはずだ。もっとはやく〆てやるべきだったかもしれない。

事故死したモアは、まだ二歳くらいだったので、美味しかった。老鶏のタンポポは固そうだ。煮込み鍋くらいしか、食べる方法はない。

用意や後片付けを含めても、クビを捻ってからバラバラにするまで、二時間ほどでできる。ただ、実務以上に精神的な疲労があり、料理して食べるまで考えると、半日以上の仕事になってしまう。「食べる」が「仕事」というのも変な話だが、やや「義務」に近い。

ルクルーゼで野菜といっしょに二時間ほど煮込んだ。いいダシは出たようだが、肉はやはり硬い。ほとんど歯が立たないほど硬い。そうなるだろうと思って、成城石井から米粉の麺を買ってきた。塩とヌクマムで味漬けして、パクチーをたっぷり載せれば、ベトナムウドンのフォーになる。ベトナムを自転車旅行したとき、橋のたもとや辻、峠などにかならずフォー屋があったので、一日五食くらい食べていた。

翌日もタンポポ鍋雑炊を楽しんで、ようやく完食。骨を叩くと、これも他のニワトリの胃袋に消えた。

服部家の鶏
「キング」 ♂ スナック菓子に目がない。
パープル」 ♀ 身軽で畑に忍び込むのが大好き。
「チビ」 ♀ 気高く人間には近寄ってこない。

「プープ」 ♀ 2世代目。人間に向かってよくしゃべる。
「よりめん」 ♀ 4世代目。ようやく群に馴染んできた。

服部家の人々
「ブンショウ」 ♂ 日帰りで札幌から雑種の小犬を連れて帰ったオッサン。
「コユキ」 ♀ 次々と増える生き物にホンロウされているオバサン。

「ショウタロウ」♂ 休日は父の一張羅を失敬してお出かけの高校2年生。
「ゲンジロウ」♂テストが終わりスプラトゥーンで腱鞘炎の中学3年生。
「シュウ」♀ニワトリと仲良しだったが、最近小犬と浮気中の小学6年生。