【vol.35】酷道309号

ドライブするだけで命に危険が迫る国道をご存知だろうか。「国道」と聞けば、生活道路よりも道幅が広く、きちんと整備されている道をイメージしがちだ。しかし、全国にはそんな常識を根底から覆す、とんでもない国道が数多く存在する。そんな危険でエキサイティングな国道のことを、我々は“酷道”と呼んでいる。

今回の酷道

酷道マニア3人で行くわくわく酷道旅
奈良県吉野郡大淀町〜奈良県吉野郡上北山村

前夜、我々は大阪のドヤ街として知られる西成に宿泊していた。1泊千円程度と、非常に格安だ。宿全体から独特の臭いが漂っているが、それもまた味というもの。
 
翌朝、それぞれが住む愛知・岐阜へ帰るべく、車で出発した。メンバーは私を含めて野郎3人。みな酷道マニアだ。同じマニアが3人集まると、車内の会話はとても弾む。楽しい反面、恐ろしいこともある。
 
奈良県に入った頃、恐れていたことが現実となった。20代の若者が
「ここから南に向かうと、いい感じの酷道があるんですけど。」
 
と言い出したのだ。ちょっと待ってくれ、大阪から岐阜へ帰るのに、なぜ奈良から南に向かう必要があるのか。むしろ正反対ではないか。ここは最年長の50代がたしなめてくれるだろうと思ったが、私が甘かった。

「いいねいいね、行ってみよう!」
 
もうノリノリである。こうなったら私も覚悟を決めて、ハンドルを南に切った。
 
しばらく快走路を走り、国道370号と別れると、いよいよ山間部へ突入した。みたらい渓谷が近くなると、道幅が一気に狭くなる。道幅が狭くなるほど我々のテンションは上がり、道の状態が酷くなるほど車内は盛り上がる。
 
これは、私が常々思っていることだが、道は狭ければ狭いほどいい。道は険しければ険しいほどいい。平坦な道なんて、つまらない。険しい道のりがあるからこそ、達成感や充実感が味わえるのだ。
 
沢に沿って伸びる道は、いよいよ究極に狭くなってきた。そのうえ、頭上に岩がせり出している。とてもじゃないが、日本で最高峰の道・国道には見えない。こんな状況こそが、我々にとって至福のひと時だ。
 
道が狭くなる度、「おおー!」「いい感じになってきた!」と歓声が上がる。酷い道がいい感じなのだから、最高に狂っている。こんな特殊な仲間とドライブできて、本当に楽しい。
 
手に汗握る楽しいドライブを続けていると、行者還トンネルが見えてきた。今回の旅の最高標高地点にあり、行者還岳を貫いている。その切り立った姿を見て修行者も引き返したということから、行者還という名前になったと言われている。
 
長いトンネルを抜けると、ここからはダウンヒルとなる。道の状態は少し良くなり、1.2から1.5車線の山道が続く。
 
道が良くなったのは少々残念だが、見晴らしが良くなったのは、いいことだ。木々の合間から、遠くの山々や、これから走るであろう道が見える。時おり車を止めては、景色を眺める。山と道しか見えないが、我々にとっては最高のご褒美だ。
 
帰るべき岐阜とは正反対に向かっているが、よしとしよう。この先、国道169号とぶつかったところで、楽しい酷道の旅は終わった。
 
しかし、このまま真っ直ぐ岐阜に帰れると思ったら、大間違いだ。オプションという名の寄り道は、この後も果てしなく続くのである。

道幅はギリギリ、頭上には岩がせり出している。

山道に突如現れる行者還トンネルの入り口。

鹿取茂雄

酷い道や廃れた場所に魅力を感じ、週末になると全国の酷道や廃墟を旅している。2000年にWEBサイト「TEAM 酷道」をスタート。徐々に仲間を増やしながら活動を続けている。
http://www.geocities.jp/teamkokudo/