ドライブするだけで命に危険が迫る国道をご存知だろうか。「国道」と聞けば、生活道路よりも道幅が広く、きちんと整備されている道をイメージしがちだ。しかし、全国にはそんな常識を根底から覆す、とんでもない国道が数多く存在する。そんな危険でエキサイティングな国道のことを、我々は“酷道”と呼んでいる。
今回の酷道

房総半島に残る
首都圏唯一の酷道
千葉県南房総市〜千葉県君津市
国道410号は千葉県館山市を起点に、房総半島を縦走して木更津市までを結んでいる。南房総市から君津市にかけて断片的に酷道区間が存在している。酷道区間は決して長くはないが、房総半島らしさが感じられる。また、首都圏一都二県における唯一の酷道だ。
今回、南房総市から国道410号をたどって北上する。南房総の海を離れ、田園地帯を抜けると山間部へと入ってゆく。この間にも酷道区間が存在するが、距離は短い。南房総市から鴨川市に入る前後で再びセンターラインが消え、本格的に酷道の様相を呈してくる。房総半島は海に囲まれているが、それ以外は山が多く起伏に富んだ地形をしており、酷道が存在するための条件が整っている。
君津市大坂で、酷道410号のハイライトといえる区間に差しかかる。この先10㎞ほどの間、2本の国道410号が並走している。直進するバイパスと、そこから東に分岐して北上する旧道だ。この旧道区間は幸いにも国道指定が外されていないため、酷道と呼ぶことができるのだ。
右折して旧道に入ると、私を歓迎するかのように幅員減少の標識が現れた。嬉しい展開の早さだ。住宅地だけに対向車がそれなりにやって来る。歩行者もいるため、慎重に運転する。
松丘郵便局を過ぎたところで、国道本線をたどって右折……しようと思ったが、道路脇の案内標識には国道410号は左折と表記されている。これに戸惑い、車を停めて地図アプリで調べ直したが、やはり国道は右折で間違いない。左折する道は国道ではないのだが、その先600mほどで国道410号と合流する。酷い道を避けさせるため、あえて左折させようとしたのかもしれない。
右折して山が険しさを増してきた頃、前方にトンネルが現れた。四町作第一隧道だ。幅は1車線しかなく、歪な形をしている。人の手で掘り、コンクリートを吹き付けただけの非常に簡素な造りだ。トンネルの内部も歪で、箇所によって空間の大きさが異なっている。
この隧道を見て、私は実に房総らしいなぁと感じた。房総には、素掘りなどの簡素な隧道が非常に多い。房総半島は隧道半島と言っても過言ではないほどだ。地形や地質、人口配分など様々な理由があるが、国道でありながらも簡素な隧道に、房総らしさを感じずにいられなかった。
隧道を過ぎると、ほどなく2車線の立派な道路に合流する。国道410号は鋭角に右折し、その先で既述の通りバイパスと合流する。この付近の国道は非常に複雑な線形をしており不思議で面白いので、気になる方はぜひ地図で調べてみてほしい。

旧道に入ってすぐ現れる幅員減少。

案内標識は国道が左折であると示しているが、左折先は国道ではない。国道は右折。これは騙される。

よいよ山道らしくなってきた。ガードレールは安心感を与えるが、同時に圧迫感も与える。

隧道内部も相当に歪な形をしている。
鹿取茂雄
酷い道や廃れた場所に魅力を感じ、週末になると全国の酷道や廃墟を旅している。2000年にWEBサイト「TEAM 酷道」をスタート。新著『酷道大百科』(実業之日本社)発売中!
http://teamkokudo.org/