第二次世界大戦が終わった80年目の節目にトランプ大統領が就任したことで、今度はアメリカでファシズムが再来した。トランプの「ガザの全住民を追い出してアメリカがガザ地区を所有する」という発言は、ヒトラーがユダヤ人やロマ人、同性愛者などを反社会的として排斥してきた民族浄化の発想と同じだ。終わりがない自己欲望のみを追求する排他主義は、社会の多様性を破壊して新たな分断と憎悪を生み出し、差別や戦争の根源を作り出す。
GAFAのトップたちやイーロン・マスクがトランプの就任式に出席して祝う姿を見ると、知らぬ間に個人情報を吸い取られ、デジタル世界にどっぷりと浸ってしまった自分たちが住んでいる世界を呪いたくなる。この原稿もリンゴマークのPCで執筆している。彼らに加担しないで生きていくにはどうすればいいのだろうか。考え始めると頭がクラクラする。
先日、家族全員で日本へ移住してきた中国人の若い映像作家と呑んだ時に、「中国は監視カメラだらけで国家によって人々は完全に監視されてしまった。共産党を少しでも批判すればすぐに消されてしまう。自分たちが存在していた痕跡さえも残らない。もう絶対に中国には戻れない」と中指を立てながら話す姿がとても印象的だった。
僕が長期間撮影していたアフリカのコンゴ民主共和国でも大きな戦闘がはじまった。日本ではほとんど報道されないが、94年に約100万人の犠牲者を出したルワンダ虐殺が引き金となって第二次世界大戦後の紛争としては最大の犠牲者(約30年間で540万人以上)を出し続けているコンゴ民主共和国の紛争は、自分たちが使っているスマホやPCの製造に欠かせない希少金属の権益争いであることを忘れないでほしい。
以前コンゴで一緒に撮影を手伝ってくれた通訳のMに連絡すると、食料や水や電気はなくなり、街はゴーストタウンとなって自分たちは家の中で隠れているぐらいしかできないと話す。少しばかりだが金を送る旨を連絡していつも通りに送金しようとすると、以前は必要ではなかったマイナンバーの登録が必要になったことが判明した。
政治家が私物化する国家によって勝手に番号をつけられ、刑務所の囚人のように管理されたくないので、我が家では誰も悪名高いマイナンバーカードを持っていない。マイナンバーがなくても納税や銀行口座も開けるのに、海外送金だけにはなぜマイナンバーが必要なのかまったくの不合理で謎だ。
ちょうど八丈から写真展示の準備で実家に来ていたので、チャリンコを漕いで近くの送金業者の窓口に直談判すると、受付のお兄さんは話がわかる人だった。コンゴの状況にも興味があるらしく、「TiKTokでたくさんの人が集められて撃ち殺されている映像を見たけれど、なんで戦争が起きているのか?」、「日本ではなぜ全くニュースとして伝えられないのか?」云々。思いがけなくお兄さんと日本のメディアのあり方やコンゴについて話し合うこととなり、手持ちの身分証だけで送金することもできた。
帰路、冬の寒風の痛みを顔で感じながら、カオスに満ちたコンゴで何度か遭遇した危機をMのおかげで乗り越えることができたと、改めて思い起こした。
亀山 亮
かめやまりょう◎1976年生まれ。八丈島在住。パレスチナの写真集でさがみはら2003年写真新人賞、コニカフォトプレミオ特別賞を受賞。2013年『AFRIKA WAR JOURNAL』で第32回土門拳賞を受賞。その他『アフリカ 忘れ去られた戦争』『山熊田 YAMAKUMATA』『戦争・記憶』などを刊行している。
コンゴ民主共和国北キブ州、2008年。ルワンダ政府の軍事援助を受けながらコンゴ政府軍と戦闘を続けるツチ系民兵のリーダー、ヌクンダ将軍。