【vol.32】アシタバをいただきます

今回のテーマ:アシタバをいただきます

3月に入った!まだ寒い日は続くけど、確実に暖かくなってきている。寒いのが苦手な私は春が大好きだ。自然界では、特に植物は、ものすごい変化を見せてくれる季節でもあるからだ。日本列島は細長く北から南の隅まで、かなりの気温差があり春の感じ方も各地で様々。特に冬が厳しい地域での雪解けの春は格別だ。私は、それを体感したくて春になると雪の多い地方に出かける。雪解けと同時に春が現れるその瞬間を見に行くのだ。真っ白な雪景色の下では、植物たちはいつ雪が溶けてもいいように準備している。雪解けと同時に飛び出してくるのだ。そのスピードが目で見えるのだ!

雪国の話はさておき、今回のアシタバは暖かい関東から南の海岸に育つセリ科の植物、春になると新芽が伸び始め、今回はその新芽を食べる。アシタバは昔から健康食品として有名で、色々な商品になっている。また、園芸植物としても売られていて、内陸でも住宅の庭で目にすることがある。春先のアシタバは、この時期、風を受けないようにあまり背丈がなく、葉を残している。セリ科なので葉の形を見れば間違えることはあまりないが、判断で迷うときは切ってみて茎の切り口を見れば一目でわかる。切り口から黄色い汁が出てくるので、これで判断できる。間違えそうな植物に有毒と言われているハマウドがあるが、食している地方もあり、どんな毒なのか知らないのでちょっと紹介することはできない。

最近はどこの地方でもイノシシが里に下りてきて、路肩や畑などを荒らす被害が出ている。このイノシシは芋類の他にこのアシタバが大好きで、アシタバの生える海岸沿いの地域では人間よりもイノシシに摘まれていることが多い。新たなライバルが誕生した!

アシタバの名前の由来は“摘んでも明日また束になって伸びてくる”というくらい摘まれてもまたすぐに芽を出すという意味なので、根こそぎ採らなければ、次々と伸びてくる。たくさんの株を見て回れば、意外と集めることができる。たとえ、イノシシにやられても掘り返されていなければ大丈夫なのだ。摘むサイズは、茎をつたって根元を確認し、新しく伸びてきている芽を摘むわけだが、伸びきっているものは固く食には向かない。できるだけ短いもの、葉がくしゃくしゃなもの。そして太いものを選ぶといい。

食べ方は色々と試してみたが、昔から美味しく食べられているおひたしや天ぷらが一番だった。天ぷらはアクを感じさせないし、おひたしは味付けのアレンジが簡単且つ美味い。材料に余裕があれば、胡麻和えや汁物・洋食などに挑戦してみるとよい。味覚は人によって違うので自分流に工夫して食べると新たな発見があるはず。

海岸を散歩しながら色々な植物などを見て回り、アシタバ以外の食べられる草を摘んで帰ると食卓にもバリエーションがつき摘む楽しみも増えてくる。こんな散歩はとても贅沢なので、時間のある人はぜひ挑戦してみてほしい。どうしても山菜採りと言うとがっついたイメージがわくが、そこを抑えて優雅に遊んでみるとよいだろう。アシタバは人気のある山菜(海菜?)なので、採りすぎても近所にお裾分けできる。また、サッと茹でてから冷凍保存することもできる。

アシタバは日本原産のセリ科の海辺を好む植物。太平洋側の関東から南に多く分布。健康食品としても有名で東京都の大島では観光にも大きく役立っている。色々な食べ方で食されている。

素手でむしり取ってもいいが、効率よく採るには刃物で切り落とす方がきれいに収穫できる。カッターナイフなどがちょうどいい。

海辺の 食べられる山菜

ハマダイコン

アブラナ科で日本中の海岸に自生する。新芽と種は食せるが、肝心の根は辛すぎてまずい。種が浮くので潮の上がる川でも見ることができる。

ハマカンゾウ

ユリ科で関東より南の海辺に自生する。里で見られるカンゾウと同じで若い葉は食用になる。アクもなくどんな料理にも適す。

ハマエンドウ

日本中の海岸で見ることのできるマメ科の植物。新芽を味噌汁などで食べるが、毒の成分を持つので多くは食べない。

ツルナ

ハマミズナ科でほぼ日本中の海岸で自生している。葉は三角で厚みがありザラ付く手触り。アクがなく、栄養価が高い。

探す

海岸沿いを歩きながら探す。アシタバはセリ科の植物で存在感のある生え方をしているので、一度覚えてしまえば見つけるのも簡単。葉の形や茎の色などを覚えるといい。食べる部分は新芽、できるだけ根元から摘むといい。

摘む時は、茎の太いもの、葉があまり成長していないものを選ぶ。伸びていてもせいぜいこんな感じ。葉が伸びているのは茎も葉も固く食に向かない。

摘んだ新芽の切り口を見ると、毒々しい黄色い汁が出てくる。これが苦味の原因だが、この汁には抗菌・抗酸化作用があり、体にいいと言われている。

料理

おひたし

1.摘んできたアシタバを水で洗いながら5分ほどさらす。葉が多く茎の長いものはおひたし。小さいものは天ぷら用に分ける。

2.鍋に水を7分目くらいと大さじ一杯の塩を入れ沸騰させる。沸騰させたらアシタバを投入。しなしなになるのを確認して火を止める。

3.鍋から素早くあげてボールなどに移し水にさらす。水にさらすことで、葉の色がきれいな緑になる。

4.形良く束ねて包丁で切り、盛り付けて完成。鰹節と醤油やマヨネーズなどで食べる。少し苦味が残るが、あまり気にならない味だ。

天ぷら

1.洗浄後、茎を一本づつ切り、丁寧に水を拭き取る。水が残ると揚げた時に油はねするのでここは手を抜かない。

2.葉の形がわかるように手で整え、葉の裏側だけに水で溶いた天ぷら粉に軽くつける。つけすぎると食感が失われる。

3.180度くらいの油で、葉がパリパリになるくらいに揚げる。一度にたくさん入れると隣同士がくっついてしまうので注意する。

4.キッチンペーパーなどの上に乗せ油を落とせば完成。揚がったアシタバはできるだけあつあつのうちに塩で食べる。時間が経つにつれしっとりしてきてしまうので要注意。

日本野生生物研究所 奥山英治

主にテレビ番組やアウトドア雑誌や本などを中心に、自然遊びや生き物の監修などで活躍中。「触らないと何もわからない」をモットーに子供向けの自然観察会も行っている。著書に『虫と遊ぶ12か月』(デコ刊)などがある。