【vol.74】にわとりのいる暮らし No.53

Vol74 Niwatori 3

阿蘇山で失踪したナツが帰ってきて二週間経った。傷の処置で、背中の毛はハゲたままだが、膿んでいた傷もすっかり癒えた。文祥とナツは、猟をするために久しぶりの小蕗に向かった。

ちょうど雪が降った後だった。私は、娘の秋を誘い、一足遅れて小蕗に着いた。お昼ご飯に、買ってきたベーグルをストーブであぶって食べる。まーた、そんなもん買って喰ってるのかよ……と文祥はぶつぶつ言う。彼は空腹が大事、といってお昼ご飯を食べないことにしているらしい。

家族で散歩に出かけると、先を歩いていた文祥とナツは瞬く間に姿が見えなくなった。いつものことだがあまりにも「速すぎる!」。雪道に、人の足跡と犬の足跡が続いている。

「ナツの耳、やっぱり聞こえてないと思う」文祥が言った。言われてみると確かに、ナツは家族の帰宅に気づかないことが多くなった。

今年八歳。年齢的なものかもしれない。猟犬の耳が聞こえなくなることは珍しいことではないらしい。俺のせいで、ナツの耳を駄目にしてしまった、と文祥はしきりに自分を責めている。

行方不明になった時、ナツがすでに難聴だったのだと考えると、近くにいると確かに感じながらも出会えなかっことに、合点がいく。

猟犬は、こうした運命も受け入れる以外ないのだろう。

Vol74 Niwatori 1
Vol74 Niwatori 2

服部家の生き物
「ナツ」 ♀ 横浜に帰ってお腹いっぱい食べたい。
「ヤマト」 ♀ 最近、ナツが苦手です。
「チャボたち」 コサムの運命はいかに。

服部家の人々
「ブンショウ」 小蕗の修繕と農作業の日々。
「コユキ」 引きこもって執筆中。
「シュウ」 大学生活が始まり、世界が広がる。
「ショウタロウ」 フォカッチャを焼くのにハマる。
「ゲンジロウ」 『ダンジョン飯』にハマる。

服部小雪

イラストレーター。さまざまな種類の鶏と、ヤギを飼うのが夢。夫の服部文祥と子どもたちとの暮らしを綴った『はっとりさんちの狩猟な毎日』(河出書房新社)が発売中。インスタグラムを始めました。
yamatonatsu1109