【vol.74】酷道152号

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ドライブするだけで命に危険が迫る国道をご存知だろうか。「国道」と聞けば、生活道路よりも道幅が広く、きちんと整備されている道をイメージしがちだ。しかし、全国にはそんな常識を根底から覆す、とんでもない国道が数多く存在する。そんな危険でエキサイティングな国道のことを、我々は“酷道”と呼んでいる。

今回の酷道

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分断区間との熱い闘い
長大トンネルが間もなく開通
静岡県浜松市〜長野県伊那市

長野県上田市と静岡県浜松市を結ぶ国道152号は、遠州灘から信州へ塩や海産物を運ぶ〝塩の道〟として、縄文時代から人々の生活を支えてきたルートだ。歴史の深いルートなのに、2箇所の未開通区間を抱え、断続的に酷道が続いている。

静岡県浜松市から国道152号を巡る。2時間ほど走ると1つ目の未開通区間・青崩峠が近づいてくる。青崩峠は中央構造線に位置し、あまりにも崩壊が激しいため、この区間に道路を建設することは技術的に不可能とされてきた。

道路は真っすぐ続いているが、国道本来のルートを確認するため右折し、青崩峠へ向かう。狭く急な坂道を上ると、途中から未舗装になった。車道の終点に車を置いて遊歩道を歩き、青崩峠に到着する。峠からの眺望はよくないが、斜面が崩れまくっているのが見える。崩れた崖の斜面が青く見えることから青崩峠と名付けられた。

先ほど右折したポイントまで戻り、直進する。この先は国道ではないが、兵越峠を通ることで青崩峠の未開通区間を迂回できる。直進すると、草木トンネルが現れる。トンネルの前後は2車線の高架橋で、まるで高速道路のようだ。しかし、すぐ先で一気に道幅が狭くなった。

一瞬だけ高規格道路になるのは、青崩峠を通過する道路を造ろうとした名残だ。計画ではもう1つトンネルを掘って青崩峠を通過する予定だったが、技術的に掘ることが不可能となり、ルート放棄されたのだ。

時が流れ2019年、青崩峠に新たなトンネルを掘る工事が始まった。23年に貫通し、25年に開通する見込みだ。国道指定から55年、未開通区間のうち1箇所を解消する目途がようやく立った。

兵越峠を越えて国道に復帰し、北上を続ける。第2の未開通区間である地蔵峠が迫ってくると、国道から左折して蛇洞林道を経由し、未開通区間を迂回できる。しかしその前に、国道を直進して通行止となる末端部を確認しておきたい。

蛇洞林道に入ると、地蔵峠に立ち寄ることにした。本来、国道が通るルートには山道があるだけなのだが、なんと逆三角形の国道標識、通称オニギリがあった。誰かが自作し、取り付けたようだ。

峠を下り、再び国道に復帰する。この先、本格的な酷道が長く続く。最後のご褒美……一般的には難関の分杭峠に到着するころには、すっかり暗くなっていた。

青崩峠トンネルが開通すると、未開通区間が1つ解消される。寂しさと、嬉しい気持ちが入り混じる。最後まで酷道をしっかりと見届けたい。

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進方向に見える草木トンネルと、左手に見える建設中の青崩峠トンネル。

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青崩峠の入り口。

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地蔵峠に何者かが設置したと思われる国道標識。立木にくくりつけられている。

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分杭峠に着く頃には、いつも決まって暗くなっている。いつか明るい時間に分杭峠を見てみたい。 

鹿取茂雄

酷い道や廃れた場所に魅力を感じ、週末になると全国の酷道や廃墟を旅している。2000年にWEBサイト「TEAM 酷道」をスタート。新著『酷道大百科』(実業之日本社)発売中!
http://teamkokudo.org/