私的山遊記 荒川(埼玉県)ー自由を味わう1泊2日の荒川パックラフティングー

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三峰口〜秩父公園橋/晴れ/2024年6月

編集部の超私的な山行について気が向いた時にゆるく綴っていく「私的山遊記」の第六回。夏日が続き、川下りが心地よい季節に差し掛かった。校了作業の疲れを癒すべく、大荷物を積み込んで通い慣れた秩父方面へ。身近な大河川の上流域で気分爽快な1泊2日の川旅を堪能する。


 無事、Fielder vol.74の校了を迎えた。今号の大特集は、「今日からできる野食生活」ということで、本誌が誇る野食のプロたちが採集から調理に至るまでの野食にまつわるアレコレを余すことなく語り尽くした1冊となっている(野食界トップの豪華顔ぶれが勢揃い。編集部員の立場でありながら、国内で野食に関する情報がここまで集まるのは本誌だけとつくづく思う)。

 気になる企画内容はというと、
「現代文明人金魚論」/服部文祥氏、「野食ハンターがこっそり嗜む通な野食材選」/茸本朗氏、「ガサガサ漁完全マスターガイド」/奥山英治氏、「カメ五郎家の食卓」/カメ五郎氏、「戦国サバイバル飯」、「縄文食のすすめ」、「本命フィールドナイフ選2024」……etc.

 さらに、前号に続いて本誌にはアウトドアスケッチの巨匠、伊東孝志氏によるアートプリントが付属! 発売は6月27日(木)。ぜひお近くの書店やコンビニ、Amazon等で手に入れてほしい。

 なお最新号およびバックナンバーは、当Webサイトのサブスクプランに加入すれば、PC・スマートフォンからいつでもどこでも読むことができる(ともに巻頭特集・第二特集を収録)。ぜひこの機会に読み放題サブスクサービスを検討してみては? 詳しくはバナーもしくはこちらから。

「Fielder vol.74」6月27日(木)発売です!

Furoku

伊東孝志氏作のアートプリント。額装して家でもアウトドア気分を感じたい
※額縁は付属しません

 そんなことはさておき、パックラフティングの話である。

 パックラフトを使った川下りに最適なフィールドというのは、意外にも限られていると思う。川の上流すぎると水量が少なく舟では効率的に下れず、逆に下流すぎると人工物が増え、水の汚れも気になって気持ちよくパドリングできないためだ。またホワイトウォーターと呼ばれる白く波立つような激流も知識・技術・装備すべて及ばない。つまり適度に水量があって人里に接しすぎず、流れが激しすぎないエリア(+川に沿って公共交通機関が通り、車を回収しやすいとなおいい)が我々のパックラフト遊びには最適というわけ。日頃から地形図や航空写真を眺めては候補地に目星を付け、入渓・退渓点や危険箇所までをチェックしている。

 いくつかの候補エリアの中から週末の天気との兼ね合いで、今回導き出されたフィールドが荒川上流である。荒川はかつての甲州・武州・信州にまたがる日本百名山、甲武信ヶ岳を起点に埼玉県内をぐるっと辿って都内を流れ、東京湾に流れ込む言わずと知れた大河川。荒川源流点の碑は過去の登山で到達したことがある。できるだけ上流から川を辿った方がストーリー的に面白いと考え、駐車、入渓、回収しやすさの三拍子揃った道の駅 大滝温泉をスタート地点に想定していた。

 渓が深く、航空写真で影になって上流部の様子がリサーチできていなかったため、当日道路や橋の上から流れの様子を確認をしつつ上っていく。実際に川を覗くと、想定以上の荒々しい流れが確認できたので、潔く計画を下方修正した。下見と妥協は大切である。

 そうして行き着いた秩父鉄道の三峰口駅の下から今回はスタートすることにした。

 

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パッキング中に蚊の襲撃を受けた。早く川に浸かりたい

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林道を外れて入渓。川岸でパックラフトに空気を入れる

 念願のパックラフティング(バックパッキングやバイクパッキングという言葉に倣って)。衣食住の荷物を積んで野営を伴う1泊2日の川下り計画である。川岸に降りてから各々の艇に空気を入れ、装備をくくりつけたら出発。

 今回はパドリングメンバーを1人増やし、3人での川旅となる。序盤から十分な水量があり、難易度高めな早瀬が連続。カメラを出す余裕はない。たびたび岸へ上陸してルート取りの確認を繰り返しながら、少しずつ漕ぎ進む。事前の予報とは打って変わって気温30度を越えるグッドコンディションのため、船内に侵入する波や水飛沫、適度なスリルさえも爽快だ。

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今回が川旅デビューの新メンバー。愛艇に選んだのはオーストラリアメーカーのものだそう。Dリングが多数あり

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パックラフトにはぴったりのコンディションのなか出航。流心はそれなりの速さがあり、水量もある

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スリリングだった奥に落ち込みのあるポイント

 気を遣うポイントがいくつか連続し、上の写真の箇所が今回のハイライト。写真では伝わりにくいが淵に向けて傾斜があり、水が集まって流速もある。渡渉も少しためらうくらい。手前の岩の上から全体を見渡して戦略を考える。

 右の流れに入るとカーブの外方向に押されて奥の落ち込みに吸い込まれるのが怖いので、ここは安全性の高い左の流れを狙うことに。対岸方向に漕いで手前の岩の左をすり抜ける。パドリングでうまく船をコントロールして狙い通りのコースを抜けられると、最高に痛快なのだ。

 1人は流れに負けてバランスを崩し、転覆。パドルは流されるも無事で何より。一時パドルは見失ったが、後々下った先で運良く回収できた。道具はなんとでもなるので、身の安全の確保を優先したい。

 緊張感のあるエリアを通過して昼休憩に。昼ごはんはお買い得だったスーパーのお弁当とカツオの柵。転覆して流されるリスクを負ってまで、船底で冷やしながら持ってきたのだった。カツオにとっては未知の領域と言える川の上流域を旅するとは、カツオも思わなかっただろう。まな板を取り出すのが面倒なため、河原の石を代わりに使ってたっぷりの生姜といただく。川で食べる刺身は特別感があってうまい。これがその場で釣り上げた川魚だったらこの上ない。

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所々上陸して前方の様子を窺いつつ休憩。偶然にもカラフルな配色となり水辺に映える

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幾分冷やしながら運んだカツオの柵を切って昼食。パックラフトをひっくり返してテーブルに

 アーチの美しい日野鷺橋をくぐったあたりで一気に川幅が広がって視界がひらけ、のんびり川旅の様相に。道路とは高低差があって川は深い森に覆われるため、橋以外に人工物は見えず、人里から隔絶した荒野の雰囲気があってよい。自分たちのペースで川旅が楽しめるのだ。

 河原ではレジャー用のインフレータブルボートを2艇、パドルを1本、そして転覆の際に流された友人のキャップも偶然発見し、回収することができた。ボートやパドルは上流のキャンプ施設から流れつくようで、下見の際に橋から見えた舟は先行者ではなく、この漂着物だったらしい。パックラフトを手にした身でレジャー用ボートを触ると明らかに生地が薄く、安定感も乏しい。いかにパックラフトが川を旅をするために作り込まれているかを実感した。

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日野鷺橋を越えると一転川幅が広がり、視界が開ける

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漂着したレジャー用ボート。パックラフトと比べると頼りない

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深い森に隔てられた中をゆったりとした平瀬が続く

 あまり川を下りすぎて町場が近づいてもキャンプがしづらくなるので、適度なところで上陸。今回は巨大な流木が目印の広河原を野営地とした。流木にタープをかけて張り、濡れ物を干して火を熾す。河原にはよく乾いた木が落ちていて薪には困らなそうだ。

 夕食はカレー。林間学校や自然教室での定番料理だが、なんだかんだ個人のキャンプでカレーを作ることは少ない気がする。その場の思いつきでサグカレー風にアレンジしてみることになった。といっても、細かく刻んだほうれん草を石ですり潰して加えるだけなので、ひと味もふた味も足りない。色だけ立派なグリーンに染まったため、青いレモンサワーやカラフルな小籠包を食べるのと同じ気分である。だんだん暗くなってきたのでそれすらも分からない。いつかスパイスをふんだんに効かせた本格サグカレーにリベンジしたい。

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ランドマークの巨木を利用してタープを張る。丸ごと焚火に放った焼きとうもろこしは絶品!

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特製のサグ風カレー。ほうれん草の甘味で味がボヤけてなにか物足りない。本場インドでは菜の花が使われるそう

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流木は腰掛けるのにもちょうどいい

 焚火を存分に楽しんだ後、タープに入る。友人2人はパックラフトをマット代わりにして寝るという。こちらはPFD(ライフジャケット)を枕として敷いてSnugpakのジャングルバックに入った。顔部分にモスキートネットが付いているので、就寝時に虫が気になる夏場の川旅には最適だろう。寝床につく頃、川の両岸にはホタルが飛んでいた。

 夜中に雨が降り、雨が差し込んでくるが、タープを低く張り直すのが面倒でそのまま朝まで寝てしまった。こういうときに化繊の寝袋なら、濡れてもいいやと割り切れるのでよい。そして実際にその後のメンテナンスも楽だ。熱帯夜の真夏になれば、防水透湿のシュラフカバーが川旅にはベストかもしれない。朝には雨は止んで、隣を見ると、マットとして使われていたパックラフトはシェルターとして活躍していた。ひっくり返したパックラフトの下に潜り込むと雨を凌げるらしいので、ぜひ雨天時には試してほしい。

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パックラフトの寝心地は良好とのこと。ただし幅をとるのでタープから出てしまう……

 夏っぽい青空となり本日もパックラフト日和である。雨による水量の変化や濁りもほぼない。食材分荷物もすっきりして快適に川を下る。長袖シャツを持たなかったことだけは反省で、強い日差しがパドルを持つ腕を差した。それでもCHAORASのスポーツてぬぐいを濡らして巻いておいたおかげで頭部と首は紫外線から守ることができ、涼しげだった。

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秩父を象徴する武甲山をバックに漕いでフィニッシュ

 退渓は秩父鉄道にアクセスしやすい佐久良橋のあたりを当初考えていたが、道に上がるのは難しそう。なので少々のアディショナルタイムを楽しんで上陸しやすい河原にあがって荷物を干す。じゃんけんの負けが車の回収に走り、ほか2人はのんびりパックラフトのお手入れ。先ほども登場したてぬぐいは、ウォーターキャリーとセットで持っておくのがおすすめ。ダウンリバー終了後に愛艇をよく洗った後、水気を拭きとってから収納すれば、帰ってからの管理が楽になる。

 帰りに御花畑の駅前の八百屋で秩父産の野菜と100円の熟れすぎたメロンを購入。帰り道の車内では、早くも次回のパックラフティング計画が話し合われた。

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濡れた装備を広げてとにかく干す。家で荷物を再度広げてお手入れするのは面倒なので、その場でどれだけ道具をきれいにできるかが鍵