【vol.38】酷道429号

ドライブするだけで命に危険が迫る国道をご存知だろうか。「国道」と聞けば、生活道路よりも道幅が広く、きちんと整備されている道をイメージしがちだ。しかし、全国にはそんな常識を根底から覆す、とんでもない国道が数多く存在する。そんな危険でエキサイティングな国道のことを、我々は“酷道”と呼んでいる。

今回の酷道

これでも天下の国道か?どこからどうみても林道「酷道429号」
京都府福知山市~兵庫県宍粟市波賀町

酷道は、わざわざ目指して行くものではないと思っている。酷道を趣味にしていると、全国の酷道を走るために旅をしているのではないかと言われることがある。しかし、そんなことはほとんどない。多くの場合、他に目的があって、その経路として酷道をチョイスしている。それは一つのこだわりでもあって、道路本来の目的である移動手段として、極力利用したいと思っているからだ。道路に行くのが目的ではなく、あくまでも目的地に行くために道路を利用したい。
 
今回ご紹介する国道429号も、まさに移動のために利用した酷道だ。国道429号は、岡山県倉敷市を起点とし、兵庫県を経て京都府福知山市に至る全長250キロの一般国道である。全線の多くが山間部にあり、酷道への期待値は大きい。

この日、早朝に岐阜の自宅を出発、京都府福知山市から酷道429号を経て兵庫県北部の廃線跡を目指していた。福知山市街を抜けたところで国道9号を離れ、429号に入った。

しばらくは普通の道が続いていたが、兵庫県との県境である榎峠が近づいてくると、道幅が狭くなった。不法投棄に関する注意喚起が目立つが、それほどストレスは感じない。木漏れ日を楽しめる程度の、ゆるやかに酷い道が続く。

榎峠を越えて兵庫県に入り、廃線跡を探索したところで、次の目的地である広島県の廃線跡に向かう。時間に余裕は無かったが、快走路と酷道の選択肢があると、どうしても酷い方を選んでしまう。

そして、ここから再び酷道429号を走るという決断を下し、兵庫県丹朝来市から宍粟市を目指して走っていると〝この先幅員減少大型車通行不能〞の看板が現れた。酷道には定番の看板だが、これを見ると気持ちが高まってくる。

高野峠に近づくにつれて、道幅は狭くなり、地形も険しくなってきた。先ほどの榎峠とは違い、手に汗握る展開だ。

いい感じの酷道を楽しんでいると、あっという間に高野峠に着いてしまった。良い酷道ではあるが、1つ1つの酷道区間の距離は短い。少し物足りなさを感じながら峠を下っていると、とんでもない光景が目に飛び込んできた。

国道の本線上に重機が居座り、木を伐採していたのだ。道路上には、伐採した際に出たと思われる木の枝や木の破片が大量に落ちている。天下の国道だというのに、これはもう林道にしか見えない。

少し待っていると、重機の人が気付いて道を譲ってくれた。驚愕の光景に興奮しながら、重機の脇を通過する。

ほどなく宍粟市波賀町に到達し、中国道を爆走して広島に向かった。広島で探索したら日が暮れるが、今日中に岐阜まで帰らなければならない。

早朝から一人、長時間に及ぶ運転と過酷な探索だが、あの光景を思い出せば頑張れそうな気がした。

程よい酷道が続く榎峠。

いかにも山あいの酷道という感じの道が続く。

鹿取茂雄

酷い道や廃れた場所に魅力を感じ、週末になると全国の酷道や廃墟を旅している。2000年にWEBサイト「TEAM 酷道」をスタート。徐々に仲間を増やしながら活動を続けている。
http://www.geocities.jp/teamkokudo/