【Vol.72】良いとされている定番作法に いま一度着目して正しく理解する ー焚火学ー

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外気温10℃未満でも焚火とタープだけで寝床の温度は30℃超まで上げられる!?

昨今の社会情勢により様々なものの物価が高騰したが、ガソリン以上に跳ね上がったのが紙。ウ戦争前と比べて製紙会社時点での材料費は200%、彼らの企業努力で我々の手元に届く紙代は150%の値上げとなり、結果雑誌代も150%アップとなった。無論、1000円超の雑誌となれば購入者数も減少するため、定価を上げたら採算がとれる……というわけでもない。ならば紙の雑誌はもう終わりなのか? 否である。電気的な二進法で表されるデジタルデータは物体としてこの世に存在し得ないが、紙なら情報を読み取った後も活用法はある。今号で焚火のあれこれを学んだ後は、まずはページ1枚を引きちぎって火口とし、その1枚で焚火を熾せるようになるまで練習してほしい。本誌がすべて燃やされるころには、誰でも一人前の焚火マスターとなっているはずである。

野営をもっと快適にする炎の特性を学ぶ
焚火の基本と応用

ひょんなキャンプブームから焚火関連の情報に溢れている昨今、果たして定番と伝えられている道具や方法が最善の選択なのかをここでは解き明かしていきたい。改めてそれらを再確認することで正しい基礎が身につき、より快適な焚火ライフを満喫できるはずである。

<BASIC.01>JISが定めたLOI値に見る身近な着火剤の実力

何はともあれ焚火に必要なのが火熾し。ライター×市販着火剤は絶対的手法ゆえ除くとして、ここでは“焚火あるある”の着火剤を切らした場合を考える。まず着火剤の代用たる資質は火が移りやすい形状であることと、そのまま燃焼を続けられることだ。ゆえに繊維で作られたものが有力候補とされるが、さらに深掘りするなら大気中で燃焼を続けるために必要な酸素濃度を表すLOI値(JIS規格)に着目したい。大気中の酸素濃度は21〜22%なので、素材のLOI値がこれを下回れば上記の資質を満たす。

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防災テクニックとしても覚えておきたい日常の火口

今回用意した着火剤の代用品は、ホムセンやコンビニなどで手に入る身近なアイテム。石油由来の化学繊維をメインに、容易にほぐして着火性が上げられるものを選んだ。着火剤を切らした場面は当然、災害時でも手に入る靴紐(アクリル)などがそれだ。

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代用不可

化繊はよく燃えると言われるが、ナイロン(パラコード)やポリエステル(化繊ウェア)のLOI値は20強となり、溶けるだけで燃焼が続きにくい。塩化ビニル(ビニールテープ)に至っては37.1と難燃だ。

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代用可

食卓用ふきんなどに使われるレーヨンのLOI値は19.7。繊維が硬くわた状とならないためメタルマッチでの点火は難しいがよく燃える。

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代用可

LOI値18.4の綿は容易に火が着き、そのまま燃え続けるが、炎を出さずにチロチロ燃えるので優れた焚き付けが必須だ。代表格は軍手。

最適解

絶えず燃え続けるアクリルが秀逸

身近な素材で最も燃えるのはLOI値18のアクリル。もはや着火剤レベルの燃焼性で素材が尽きるまで燃え続ける。今回はメタルマッチでの着火も想定した毛羽立てやすいロープを用いた(アクリルセーターの着用は注意)。

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“渓の翁”の愛用品

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ライターを用いるならガムテープも選択肢の1つ

服部文祥がテンカラ釣りの師匠と仰ぐ渓の翁・瀬畑雄三氏は着火剤にガムテープを用いる。形状的にメタルマッチでの着火は困難だが、接着面に使われる天然〜合成ゴム素材の燃焼性がよく、長時間燃え続ける。

<BASIC.02>玄人がこぞって用いる針金ポットフックの素材検証

焚火調理時にクッカーを吊るす道具として抜群の使い勝手を誇る針金は、野営玄人の必携装備だ。今回はホームセンターで手軽に購入できる5種の針金を比較して野外調理に最適な素材を確かめた。検証方法は、そのままの状態と焚火で熱した状態で折り曲げ、それぞれの破断強度と柔軟性を測る。ぜひ針金選びの参考にされたし。

最適解

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様々なシーンで役立つ最高の針金を選び取る

焚火で溶けるアルミ線と復元力が高すぎるピアノ線はポットフックに適さない。銅線も熱すると軟化して強度が落ちるため、十分な強度を保つステンレス線と亜鉛メッキ鉄線の2択となる。本誌的には安価で若干しなやかな亜鉛メッキ鉄線を推したいが、使い倒すとメッキが剥がれて錆びるため、ステンレス線もアリだ。