【vol.72】第40回 伝統保存食入門

スジコの粕漬け

すぐに食べ切ってしまって余ることなどそれほどない食材それがスジコである。しかし偶然にも余るようなことがあった時青森では酒粕漬けにする風習がある。1ヶ月の時間を経てそれは極上の酒の肴となる。

スジコの赤は幸福の色

イクラとスジコ、どちらが好きかと聞かれたら僕は圧倒的にスジコ派だ。飾りに使ったりするにはイクラの方が映えるし、半年に1回くらいはイクラ丼も悪くはないが、ご飯のおかずやおにぎりの具にするなら、やはりスジコである。

先日、父の17回忌で久しぶりに生まれ故郷である青森に帰ってきた。せっかく青森まで来たのだからと青森駅そばの市場「アウガ(津軽弁で「会おうか」の意)」のスジコ専門店(こういう店があること自体凄い!)でスジコを買っていたら不意に昔のことを思い出した。

青森においてもスジコはご馳走のひとつで、熱々の白いご飯に載せた真っ赤なスジコは幸福の象徴のように思われてきた。だから、何かイベントやお祝い事があると「スジコを持っていけば間違いない」という風習が昔の青森にはあり、もらったスジコが食べきれないという極めて幸福なアクシデントもたまに発生した。そんな時に作ったのがこの料理だ。

スジコ自体が鮭の卵の保存食なのだが、それを粕漬けにすることでさらに保存効果を高めたモノだ。酒粕のおかげで水分が抜けネットリとした食感と味の深さはこたえようがない。まさに極上の酒の肴だ。酒が飲めないくせに酒の肴は大好きだった母の好物のひとつでもあった。スジコが余るなんていうことは、まずあり得ないと思うのだが、試しに作ってみても後悔はしない一品である。

【材料】
スジコ1腹(1本)、酒粕500g、ガーゼ30×30cm 2枚

【作り方】
❶スジコを5~6等分にする。包丁を使わずに手でバラすこと。包丁を使うとスジコの粒が切れてしまう。
❷皿や平たい保存容器などに酒粕の半量を平らにならして敷き詰める。
❸酒粕の上にガーゼを敷く。ガーゼを敷くのは酒粕とスジコが混じってしまわないようにするためだ。
❹酒粕の中心にスジコを平たく載せる。
❺スジコの上にガーゼをかぶせる。
❻残った半量の酒粕を平らに敷き詰めるようにして載せる。
❼ラップフィルムをかぶせて冷蔵庫で寝かせる。
❽1~2週間で酒粕がしみ込んできて味に変化が出てくる。
❾4週間~1ヶ月たつとスジコの水分が半分程度抜けてネットリした感じになってくる。味もこなれてくる。状態の変化を見つつ味見しながら食べていくのが楽しいが、僕のオススメはやはり4週間以上漬けたものだ。味見の際、食べる際には日本酒を忘れずに用意したい。

青森の市場「アウガ」にはスジコ専門店があり、選ぶ際には味見もさせてくれる。スジコは粒の大きいものと小さいものがあるけれど、今回の料理にオススメなのは粒が小さめで味の濃いもの。

容器に酒粕を平らに敷く。酒粕が板状になっているもの、少し硬めのものは一度よく練っておくといい。ほんの少しラム酒などを加えるとまた違った味わいになって面白い。

酒粕にガーゼを敷いて中心部にスジコを敷き詰める。スジコをあまり厚くしすぎると中まで酒粕が染み込むまで時間がかかる。僕は4~5cmを限度にしている。

写真・文 鈴木アキラ

1960年生まれ。料理と刃物研ぎが大好きな飲んべえアウトドアライター。「アウトドアで活躍!ナイフ・ナタ・斧の使い方(山と渓谷社刊)」ほか著書多数。