【vol.72】にわとりのいる暮らし No.51

シーシーがたった二個の卵を温め始めた。二個では寂しいからと、娘がスーパーで有精卵を買ってきて、シーシーの目の前に差し出した。シーシーはキョッ!と驚き、嘴で卵を羽毛の下に押し込んでくれた。

二十二日目ごろ、元気な二羽のヒナの姿を確認。買ってきた有精卵は命は発生したものの孵らなかったようだ。ヒナの様子が安定したところで、早々と母子を野に放つ。シーシーの土を掘るジェスチャーから、一刻も早く子供たちに土の中の生き餌を食べさせたいという情熱がひしひしと伝わってきたからだ。

そうこうしている間に、北海道の長旅から文祥とナツが帰って来た。旅に同行してくれた二人の仲間、エゾ鹿たち、現地でお世話になった人々、さまざまな要素や幸運がつながって、旅を無事に終えることができたのだと思う。

文祥は、長旅の後はおだやかな表情で、好き勝手できるのも家族のおかげだというようなことを言う。こんなに感謝のあるいい人になって帰ってくるなら、長い旅も悪くないな、と毎回思う。

ちょうど文祥の帰宅のタイミングで、友人が海に出て釣り上げた鯵を、たくさん分けてくれた。文祥は山の中で、帰ったら押し寿司を食べたいと考えていたようだ。早速、鯵を三枚におろす(おろすのは夫の役です)。塩を振って一晩寝かせ、翌日すし飯を曲げわっぱなどに詰めて魚を並べ、グッと押してしばらく置く。多少手間隙かかっても、押し寿司のおいしさにはそれを上回る感動がある。

四日目の朝、ごちそうの食べ過ぎで家族全員の胃の調子が悪くなり、私がネギのストックを切らせたことで、文祥の機嫌が悪くなった。「もう、旅の間にストックした『いい人』を使い切ってしまったようだ」と文祥が言い、下山後パーティーはあっけなく終了した。

服部家の生き物
「ナツ」 ♀ 狩猟シーズンが始まり、忙しいです。
「ヤマト」 ♀ ナツに負けず、ネズミを獲っています。
「チャボたち」 春に生まれたヒナが成鶏になり、卵を産むように。

服部家の人々
「ブンショウ」 『北海道犬旅サバイバル』『山旅犬のナツ』刊行しました。
「コユキ」 干し柿200個作りました。
「シュウ」 ナツが帰ってきて幸せです。
「ショウタロウ」 サラリーマン頑張っています。
「ゲンジロウ」 スパイスカレーの店で働いています。

服部小雪

イラストレーター。さまざまな種類の鶏と、ヤギを飼うのが夢。夫の服部文祥と子どもたちとの暮らしを綴った『はっとりさんちの狩猟な毎日』(河出書房新社)が発売中。インスタグラムを始めました。
yamatonatsu1109