私的山遊記 奥久慈男体山&茨城のジャンダルム(茨城県)ー標高500m前後の低山で岩稜歩きを味わうー

奥久慈男体山、茨城のジャンダルム(生瀬富士)/晴れ/2023年12月

編集部の超私的な山行について気が向いた時にゆるく綴っていく「私的山遊記」がこちらのフィールダーWEBページにてスタート。細かいことは置いといて、1人の登山者の記録として気楽に読み飛ばしていただけたら。できる限り、みなさまの登山計画の参考になる情報をお届けできるよう、尽力して参ります。

今回は、標高500m前後ながら登りごたえ充分な茨城県北部の岩稜を巡る旅。

 ここ最近は、関東近郊の低山に傾倒している。山選びさえうまくやれば、短いコースタイムの中に岩場や滝、展望地、神社、動植物などの見どころが凝縮され、コンパクトに山登りの魅力を堪能できるからだ。ただし、低山だからといってなめてはならない。アルプスの急登に匹敵する急勾配が待ち受けていたり、有名ルートのようには整備が行き届いていなかったり、そもそも踏み跡や事前情報が少なかったりする場合もある。それらが良さだったりもするのだが。

 そんなわけで、12月はじめは茨城県北部の低山へ向かった。夜集合で仮眠をとって明け方に出発。水戸で友人を拾って登山口に着いたのはおそらく10時過ぎだった。都内から常磐道ですぐの感覚だったが、福島県にも接する奥久慈エリアは思っていた以上に遠く、寝不足&出遅れというよろしくないはじまり……。だが、今回一緒に山を歩くのは、大学の同期の中でも特に山になど興味のなさそうだった友人。いつの間にやら登山をはじめていて「君も山のおもしろさを知ってしまったか!」と心から嬉しい。

 さて、大円地駐車場はほぼ満車。暖冬とはいえ12月に差し掛かり、雪や凍結のない手軽な山で確実に自然を満喫したいという、同じ考えの登山者も多いのだろう。

 そういえば茨城県にロングトレイルが誕生するという噂を耳にしてから、密かに注目していた茨城県北トレイル。今回歩いた男体山や生瀬富士もその一部に当たるが、なんとこの10月より名称が「常陸国ロングトレイル」に変更されていた。当然、標識などは県北トレイルの旧ロゴのまま。茨城の山地を象徴する山々の連なりを、シンプルかつ爽やかにうまく表現した旧ロゴがかなり好みだった。そのあたりはどうなるのだろう。

 登山口からまっすぐに登って写真の岩場で視界がひらける。標高1000mに満たない低山と里が連なる茨城らしい風景。静かで山深く入り組んだ感じは、奥秩父にも似ているような、似ていないような。散りかけた紅葉がまだ美しく、点在する鎖付きの岩場は登る者を飽きさせない。火山岩系の岩はゴツゴツしていてグリップが効くが、落ち葉がたまっていたりもするのでそこは注意。

 今回足元は、アルトラのローンピーク4.5をチョイス。少し前のモデルだが(現在の最新モデルは7)、しっかり足の動きに追従して歩きやすい。そして、かっこいい。

 休憩をはさんでも1時間ちょっとで登頂。切り立った岩壁の上に祀られる社で手を合わせ、裏にまわりこむと太平洋がかすかに望める。ここ奥久慈男体山の山頂は、634mでスカイツリーと同じ高さらしい。正確には、スカイツリーの立つ地点の海からの高さがプラスされて634+αmとなるので、標高ではスカイツリーのてっぺんの方が若干高いはずだ。

 景色を楽しんだ後は、お待ちかねの昼食だ。いつも準備のいい友人が、行きのコンビニで知らぬ間に調達したビーフシチュー+チーズやあんこ、チョコを挟み込んでホットサンドを調理。仲良く3人で1枚をかじって回し食いを繰り返すこと4回。最高にうまい。山をはじめたころからこうして食料は仲間とシェアするようにしている。その方が、最高にうまいからだ。ちなみに私は空身で片手に地図。脱いだ上着も人のザックに詰め込んでおりました。まあ計画を担当したのは私なので、良いバランスということで。

 風もなく太陽が心地よかったので、ついゆったり過ごしてしまい、お風呂だったりを考えるとあまり時間がない。男体山から続く尾根道を篭岩まで行ってみたいと考えていたが、断念して大円地越から下山。この乗越も静かで良い所だった。

 登山口付近から男体山を振り返ると山頂の鉄塔がわずかに見えた。下から眺めてもその名にふさわしく雄々しい岩峰である。男体山と呼ばれる山は他にもいくつかあり、日光市の男体山や筑波山男体山は有名(共に日本百名山に名を連ねる)。ほとんどの場合、近くに女体山(女峰山など、別の呼ばれ方のこともあり)が存在し、セットになっている。こちらの奥久慈男体山では、すぐ隣の長福山が別名、女体山と呼ばれるそう。男体山と女体山を縦走するのも良い楽しみ方だろう。

 話は戻るが、計画変更の理由はというと、もうひとつ歩きたい場所があったためである。その場所こそ、誰が名付けたか、“茨城のジャンダルム”。ジャンダルムを知る人も知らぬ人も気になるネーミングだ。

 車に戻って久慈川沿いを少し北上する。この久慈川は、夏にアユ釣りで訪れたが、あちこちで護岸工事が行われていてアウトドア好きとしては残念だ。

 日本三名瀑に数えられる袋田の滝から少し離れた手前の駐車場へ到着。奥のパーキングは有料らしく、無料のこちらは観光客の車で溢れていた。

 観光客の流れに逆らって集落側へ入り、裏山を早足で上がることわずか30分ほど。それほどの難所もなく視界がひらけ、両側の切れ落ちた岩稜帯に立つ。ここが人呼んで茨城のジャンダルム。正式には生瀬富士といい、標高は406mだそう。これほど手軽に岩稜のスリルと快感を味わえるとは。しかもあまり登山や岩山のイメージがない茨城で。

 理想通りにうまく高度感の伝わる写真は撮れなかったが、光景を心に刻んで下山。立神山の山頂を踏んで、袋田の滝側に下りることもできるが、今回はトレラン気取りでフィールドを駆け抜けながら駐車場へまっすぐ引き返す。

 日照時間が短いのは辛い。行動・計画が忙しなくなり、朝出遅れるとあっという間に日没を迎えてしまう。本日12月22日が1年で最も日の短い冬至なので、これから日が延びていくのを心待ちに、今できる遊びを楽しみたい。

 帰り道、茨城では人気のローカルチェーン、とんQへ。ご飯とせん切りキャベツ、漬物がおかわりできるとんかつ専門店だ。週末は店の外まで順番待ちの人で溢れるほどの人気ぶりなので、事前にネット予約をしておくとスムーズに入店できる。10月の北海道徒歩旅行(本誌vol.72「THE JOURNEY WITH A GUN WITHOUT MONEY Ⅲ」を参照)から続く食欲バブルはいまだ弾けず、カツ煮で米5杯を完食。感謝。結果、エネルギー収支はプラスとなって日常へと戻ることになった。

 これから冬本番を迎えると、フィールドに足を運びたい気持ちは山々だが、雪や路面の凍結で行動範囲が限られてしまう。そんな時は雪山登山やウィンタースポーツももちろんいいが、低山ハイクも選択肢に入れてみてはいかがだろうか。情報を集めて魅力的な低山を選べば、見どころ満載の充実した時間を楽しめるはず。最低限、地図とコンパス(or地図アプリ)、飲料水は忘れずに。ぜひ山の楽しみを広げてほしい。