愛鷹山(黒岳〜越前岳〜呼子岳)/DAY1:晴れ、DAY2:晴れ→曇り/2023年12月
編集部の超私的な山行について気が向いた時にゆるく綴っていく「私的山遊記」がこちらのフィールダーWEBページにてスタート。細かいことは置いといて、1人の登山者の記録として気楽に読み飛ばしていただけたら。できる限り、みなさまの登山計画の参考になる情報をお届けできるよう、尽力して参ります。
御殿場で用があり、近くにいい山はないかなと地図をひらいた。あります、愛鷹山。富士山の南裾に広がる山塊で、目前の富士山と駿河湾の大パノラマが楽しめる。日本二百名山。 前々から山中の小屋が気になって情報を集めていたが、比較的都内から足を運びやすい立地がゆえ、後回しにしていた。この機にぴったりと思い立ち、代休を申し出た。
数日間は安定した天気が続くとの予報だったため、自由度の高いスーパーカブでツーリングと山登りと寄り道をふらふらと気ままに満喫しようという計画。50ccバイクのため御殿場までは4時間以上をみて朝4時過ぎに起き出したのだが、エンジンをかけたところで後輪のパンクが発覚する。つい先日までは問題なかったのに……。というわけでゴールデンプランは崩れたが、とりあえず愛鷹登山口に到着。水を採ろうと思っていた大沢は枯れており、下山者から情報と余り水を恵んでもらう。日曜の昼下がりということで、駐車場にはたくさんの車が停められていて、次々に下山する人とすれ違った。「あんなところに泊まれるの?」、「ワイルドですね」という言葉に期待が膨らむ。汚いのは嫌いだが、味があるのは嫌いじゃない。小屋泊を企む同士がいないことを願い、あしたか山荘に入った。
山荘は、黒岳から越前岳に続く尾根のすぐ下に位置する。入り口が土間になっていて囲炉裏のようなスペースも設けられている。6畳ないくらいの部屋にはカーペットが敷かれ、毛布や小さいクッションも完備。裏手の水場は枯れているが、そのほかは一夜過ごすには十分だ。それほど利用されていないようだが、表札や注意書き、飾られた写真や備品など、大切にされてきたことがわかる。
カメラだけを持って黒岳に登り、富士山を眺めた後、日が暮れないうちに小屋の囲炉裏で煮炊きをする。コンクリートブロックの壁で防火された囲炉裏の脇には薪が用意され、天井には2つの煙突。拾ってきた杉の枯れ葉と薪を使って最小限の火を熾し、米を炊いた。やはり排煙がうまくいかず、扉と窓を全開にして蛇腹のカーテンで仕切っても部屋の中は煙たかった。しばらく熾火に当たって毛布を2重に敷いた寝床につくと屋根裏を生き物が這う音が……。そういえば天井からヘビの抜け殻が垂れ下がり、小屋の入り口にも別の抜け殻が落ちていた。以前も似たような廃屋で何度かアオダイショウを見たことがあるから、こういった古い家屋を住処にすることが多いのだろう。それでも焚火パワーにより朝まで快眠だった。
朝は夕飯の残りを炒飯にして、その残りは握って持ち運ぶ。熾をうまく燃やしきって小屋を出てから越前岳までは約1時間半の登り。麓に射撃場があり、午前から銃声が響き渡る。けっこうな距離があるはずだが、まあまあ近くのように感じてしまう。ちなみに山行中はシカの痕跡を時々見かけ、6頭のシカに遭遇した。
愛鷹山塊の最高峰、越前岳(1504m)から呼子岳を通り、割石峠で山神社方面へ下る。破線ルートになっている鋸岳〜位牌岳を通って下りるつもりだったが、水がなく雲が出てきたので下山に切り替えた。下山日の平日、登山口の車は3台だった。足湯に寄って駅まで歩き、JR御殿場線で帰路につく。カブもいいが、徒歩と鉄道での帰り道もまたいい。
登山口から小屋までは1時間未満の登り。これほど手軽にアクセスできて火が使える小屋は関東近郊では貴重である。やや不気味な佇まいでふつうの登山者を遠ざけるようなので、小屋好きにとってはぴったりの穴場だろう。注意すべきは飲み水で、現地で汲もうと思っていると、どの谷にも水がない(シカたちはどこで水分補給している?)。富士山が間近なため、あちこちでダイナミックな風景が楽しめる。道中には他にも巨樹が多く見られ、小屋を目的としない方にももちろんおすすめだ。