【vol.72】酷道257号

ドライブするだけで命に危険が迫る国道をご存知だろうか。「国道」と聞けば、生活道路よりも道幅が広く、きちんと整備されている道をイメージしがちだ。しかし、全国にはそんな常識を根底から覆す、とんでもない国道が数多く存在する。そんな危険でエキサイティングな国道のことを、我々は“酷道”と呼んでいる。

今回の酷道

大幅な迂回を強いられる
ちょっぴり不思議な分断国道
岐阜県下呂市〜岐阜県高山市

国道257号は静岡県浜松市を起点に岐阜県高山市に至る225キロ余りの一般国道だ。起点から順に辿っていくと、静岡県から愛知県を経て岐阜県に入るまで、特に酷さは感じられない。岐阜県下呂市に入り馬瀬川に沿って走っているとセンターラインが消え、1車線ギリギリのトンネルに入る。いよいよ酷道区間かと色めき立つが、あっという間にセンターラインが復活してしまう。

道の駅パスカル清見の付近で国道472号と合流し、重複区間となる。この先は〝せせらぎ街道〟と呼ばれる区間となる。せせらぎ街道とは、岐阜県の美濃地方と飛騨地方を結ぶルートの愛称で、3本の国道と1本の県道により構成されている。

せせらぎ街道を進んでいくと、先ほどまで国道257・472号併設区間だったのに、突然、県道73号に変わってしまう。道路脇に国道標識が立っていたのに、そのすぐ先には県道標識が見えているのだ。

何とも不思議な光景だが、国道標識と県道標識の間をよく見ると、細い道が左に伸びている。この左折する細い道こそが、国道本線なのだ。大多数の人は何も気にせず直進しているが国道は左折し、直進するせせらぎ街道は県道に切り替わっている。

私は当然、国道を進む。左折するなり驚くほど道幅が狭くなり、本格的に酷道の様相を呈するが、1キロほどで行き止まりになってしまった。そう、この先は国道の不通区間だ。国道は山によって東西に分断されており、不通区間の距離はおよそ3キロ。1999年には不通区間を含む7・5キロのバイパスを建設する計画が持ち上がったが、2011年に事業の休止が決定され、不通区間解消の目途は立っていない。

酷道巡りは、これで終わりではない。不通区間の反対である西側にも行かなければならない。不通区間は3キロだが、車で回り込むには60キロの道のりを1時間半かけて迂回する必要がある。

大きく北に回り、不通区間の西側へと向かう。国道158号と別れ、東海北陸道の下をくぐると、再び本格的な酷道区間となった。道幅はギリギリ、川との間にガードレールはなく、路面はボロボロ。まさに理想的な酷道だ。

バイパス計画の名残も随所に見受けられる。部分的に改良された2車線道路や、草に埋もれた立派な橋台が夢の跡を感じさせる。

国道158号との分岐から4キロほど走ったところで、酷道は終わる。酷道区間の距離こそ短いが、十分に過酷な道のりだった。迂回に要する距離と時間も含めて、その過酷さを楽しみたい酷道だ。

せらぎ街道での国道から県道への継走地点。

この先が通行不能であることを知らせる無情な看板。

不通区間の西側は、より本格的な酷道が楽しめる。

川との間にガードレールなど存在しない。不通区間を繋ぐバイパスが完成していれば、この区間も2車線道路となる予定だった。

鹿取茂雄

酷い道や廃れた場所に魅力を感じ、週末になると全国の酷道や廃墟を旅している。2000年にWEBサイト「TEAM 酷道」をスタート。新著『酷道大百科』(実業之日本社)発売中!
http://teamkokudo.org/