【vol.71】第39回 伝統保存食入門

ミミガーの燻製

今回の食材は沖縄風に言うとミミガー。そう、豚の耳である。沖縄料理屋では薄くスライスされ、酢味噌やピーナッツ和えにされて突き出しとして出されたりするアレだ。一頭の豚から2枚しか取れない貴重部位。今回は保存の効く燻製にしてみた。

豚は鳴き声も使う

以前、本連載の「スーチカー(豚バラ肉の塩漬け)」の回で「沖縄では豚は鳴き声以外全部食べる」と書いたところ、本誌でもおなじみのイラストレーター伊東孝志さん(奄美&沖縄在住)より「アキラさん、昔の沖縄では豚は鳴き声も使っていたんだよ。食べるわけじゃないけどね」とのご指摘があった。豚の鳴き声の使い方とはこうである。

沖縄では昔は大体どこの家でも豚を飼っていて、外出して家に入る前に豚のお尻を枝でつついて「ブヒーッ」と鳴かせていたのだという。豚の鳴き声には「魔除け」の効力があり、厄除けを行なってから家に入っていたらしいのだ。「なるほど!」と思わせる話ではあった。

知り合いの沖縄のオジイは「豚の鳴き声を聞くと、それだけで様々な豚料理が思い出されてツバが湧いてくる。だから実は鳴き声も食べているんだよ」と言っていた。これもまた深くうなずける話である。

今回のメイン食材であるミミガー、つまり豚の耳を仕入れてくれたのは、いつもお世話になっている近所の肉屋「田原精肉店」の健二ニーニーである。田原さん一家は沖縄は糸満の出身で、ここでは沖縄県産の豚肉だけでなく島豆腐、沖縄そばの麺や具材の他、オリオンビールまで扱っていて、ここでの買い物だけで沖縄料理が作れてしまう貴重な店だ。豚の耳など内地の肉屋では普通はまず手に入るものではない。奥さんの一美ネーネーが作る沖縄惣菜も絶品だ。

【材料】
ミミガー(豚の耳)2枚、醤油100cc、みりん200cc、泡盛200cc、砂糖200g、ショウガ1個、スモークウッド2本

【作り方】
❶ミミガーは毛の処理がなされているが、残っている場合にはガストーチであぶって焼き切っておく。
❷水から30分程度茹でて余分な脂分を抜く。
❸水気を拭き取った②をザルにあけ2~3時間風に当てて表面の水分を飛ばす。
❹ショウガをすり下ろす。
❺醤油、みりん、泡盛、砂糖、④を混ぜ合わせひと煮立ちさせる。
❻⑤に③を入れ1時間半程度煮る。
❼水分を拭き取ってザルにあけ風に当てて表面を乾かす。
❽耳の付け根に穴を開けフックをかけてスモーカーにセットする。熱源からの距離をできるだけ取るのが望ましい。
❾スモークウッドの片方に火をつけて燻煙する。両端に着火すると短時間でスモークできるがスモーカー内の温度が上がりすぎてしまう。
❿好みの程度まで燻煙する。軽くならば3時間程度。保存目的にするなら6~8時間程度。時間をかけるほどスモーキーになるが硬くもなる。
⓫細く切ってから食べる。燻煙後すぐ食べずに1日程度置いて味が馴染んでから食べるのがオススメ。すぐだとエグみが残っていることがある。

豚の耳、見たことのない人は引いてしまうかもしれないリアルなお姿である。でも、あなたも大好きなホルモンなんか、もっと凄いんだぞ! 沖縄の公設市場では豚の頭1個丸ごと店頭に並んでいたりする。

処理しきれていない毛はガストーチであぶって焼き切る。自分の耳がトーチの火であぶられることをちょっと想像してしまう。スマン! 美味しく食べるから!

じっくり燻製する。スモーカー内の温度を上げると肉切れを起こしやすい。できるだけ熱源から離すこと。垂れる脂で炎が上がらないようにすることが肝心。

写真・文 鈴木アキラ

1960年生まれ。料理と刃物研ぎが大好きな飲んべえアウトドアライター。「アウトドアで活躍!ナイフ・ナタ・斧の使い方(山と渓谷社刊)」ほか著書多数。