ペミカン
油脂で食材を固めて空気を遮断し、保存効果を高めるという手法は、世界中で古くから使われてきた保存食技術のひとつである。ネイティブアメリカンの保存食を元に山での食事のために考案されたのが今回のペミカンだ。
懐かしき山の保存食
元々のペミカンはネイティブアメリカンの考案した保存食で、バイソンやシカなどの干し肉とドライフルーツやナッツなどを獣脂で固めた保存携帯食のことを指す(クリー語の「ピミーカーン」が語源。ピミーは脂肪、油脂のこと)。シベリアの先住民たちはサケやタラ、コイなどで、これの魚バージョンを作っていたという資料もある。パテやコンフィなどの保存食もビンの上部に油脂分を入れて固めるということが行なわれており、「油脂で空気を遮断し保存効果を高める」ことは世界各所で古くから行なわれてきた手法であることがわかる。
今回紹介するペミカンはネイティブアメリカンのものではなく、昔の山屋(登山家)が使っていた携帯食のことだ。山岳部や山岳会では出発の前夜に食料担当が作っていた。簡単に言うと肉や野菜を細かく刻み、炒めたものをラード(豚の脂)もしくはヘット(牛の脂)で固めたものである。現在は様々なフリーズドライやアルファ米のシリーズが出ているのでペミカンを持って山に行く人は少なくなってしまったが、白米のアルファ米にペミカンを少し足すだけでチャーハン風にすることができたりするから、覚えておいて損はないだろう。
外気温の高い季節は油脂分が溶けてしまうので、基本的に寒い季節に使うことをオススメしたい。
豚脂や牛脂は前もって肉屋さんに相談しておけば、肉を捌く際に出たものを取っておいてくれる。近所にお肉屋さんがあるなら時々買いに行って仲良くなっておこう。スーパーではこういう融通はきかない。
油を出す時にはできるだけ弱火でじっくりと行なうのが何よりのポイント。火が強いとせっかく溶け出した油が焦げ臭くなって台無しになってしまう。
炒めた野菜と肉の全体に油が行き渡るようにして、ヒタヒタになるまで注ぐ。中の空気が抜けるように軽く振動を与えて、粗熱が取れたら冷蔵庫で冷やして固める。
写真・文 鈴木アキラ
1960年生まれ。料理と刃物研ぎが大好きな飲んべえアウトドアライター。「アウトドアで活躍!ナイフ・ナタ・斧の使い方(山と渓谷社刊)」ほか著書多数。
【材料】
豚脂もしくは牛脂500g程度、豚挽き肉もしくは牛挽き肉300g程度、タマネギ1個、ニンジン1本、ピーマン2個、ブラックペッパー大さじ1
【作り方】
❶豚脂もしくは牛脂を1cm角程度に細かく刻む。小さくした方が油が出やすい。
❷鍋に入れて弱火にかけ、油を出す。決して焦がさないこと。
❸油が出始めると出た自らの油で揚げるような状態になる。
❹ある程度の油が溜まったらコーヒーフィルターで濾す。500gの豚脂もしくは牛脂から約300cc程度の油が取れる。
❺タマネギ、ニンジン、ピーマンを細かく刻む。
❻挽き肉を炒める。
❼⑤を加えてさらに炒め、ブラックペッパーを振る。できるだけ水分を飛ばすのがポイント。
❽後で取り出しやすいようにポリ系の耐熱容器に入れて上側は平らにならす。
❾取れた油をヒタヒタになるまで注ぐ。
❿粗熱が取れたら容器にフタをして冷蔵庫に入れて冷やし固める。バターなどよりも融点が高いので比較的早く固まる。
⓫使う際には小分けに切ってから使うといい。
⓬スープに入れてもいいし、水とカレー粉(カレールウ)を足すだけで即席のカレーを作ることもできる。アイデア次第で様々な料理に使うことができる。