【vol.68】酷道503号

ドライブするだけで命に危険が迫る国道をご存知だろうか。「国道」と聞けば、生活道路よりも道幅が広く、きちんと整備されている道をイメージしがちだ。しかし、全国にはそんな常識を根底から覆す、とんでもない国道が数多く存在する。そんな危険でエキサイティングな国道のことを、我々は“酷道”と呼んでいる。

今回の酷道

近い将来の消滅が確定
今楽しみたい酷道
宮崎県日向市〜宮崎県西臼杵郡五ヶ瀬町

国道503号は、熊本県阿蘇郡高盛町から宮崎県日向市に至る総延長114キロ余りの国道だ。路線図を見ると、九州を横断するわけでも縦断するわけでもなく、少々中途半端な印象を受ける。しかも、国道全線のうち大部分が他の国道と重複しており、503号の単独区間は36キロしかない。さらに、その限られた単独区間の大部分が酷道の状態だ。こんな現状で本当に国道に指定しなければならなかったのかと疑問に感じてしまう。

それでは、実際に503号を走ってみよう。宮崎県日向市側からスタートすると、国道327号との重複区間が長く続く。諸塚村で右折すると、ようやく503号の単独区間に入る。ここからは七ツ山川に沿って北上するが、まだしばらくは2車線の快走路だ。沿道に掲げられた〝飯干トンネル実現に向かって!〟と書かれた横断幕が目を引く。

宮の元ダム付近から、いよいよ道幅が狭くなり、待ちに待った酷道区間が始まる。センターラインが現れては消えてを繰り返し、飯干峠へと徐々に上っていく。

途中に〝道路を広げる工事を行っています!!〟と書かれた看板が立っていた。目の前では、まさに幅員を広げる工事が行われている。数百メートルという限られた区間ではあるが、道路が便利で快適になるのは良いことだ。それは分かっているが、酷道が失われつつある光景を目の当たりにすると、酷道マニアとして寂しさも感じる。

酷道を走ること40分、標高が上がるにつれて七ツ山川とも離れ、飯干峠に到着した。標高1000メートルを超える峠で、複数の巨大な風車が回っていた。中九州大仁田山風力発電所の施設で、山の稜線に複数の風車が並んでいる。

風車も気になるが、道路沿いに建てられた〝国道503号飯干峠トンネルの早期実現をめざそう!〟と書かれた巨大な看板も気になる。麓で見かけた横断幕は〝飯干トンネル〟だったが、こちらは〝飯干峠トンネル〟になっている。どうでもいいような細かいことだが、つい気になってしまう。

この手の早期実現系の看板は全国各地で見かけるが、悲願のまま終わってしまうケースも少なくない。失礼ながら「どうせここも……」と思っていたが、2022年、飯干峠トンネルを含む飯干峠バイパスが事業化された。このバイパスが完成すると、503号の酷道区間は完全に消滅してしまう。酷道とは、儚いものだ。

ちなみに、飯干峠と同名の峠が九州にもう1箇所ある。国道265号の飯干峠だが、この265号も酷道として名高い。同じ宮崎県、しかも双方とも酷道なので、非常に紛らわしい。まずそんな状況が無いと思うが、飯干峠で待ち合わせをする時には注意が必要だ。

峠を下ると国道218号と重複し、酷道区間は終了する。酷道の儚さを感じ、酷道はあるうちに走るしかないと、決意を新たにするのであった。

まさに酷道が失われゆく現場。

飯干峠に到着。悲願の飯干峠トンネルは昨年、事業化された。

鹿取茂雄

酷い道や廃れた場所に魅力を感じ、週末になると全国の酷道や廃墟を旅している。2000年にWEBサイト「TEAM 酷道」をスタート。新著『酷道大百科』(実業之日本社)発売中!
http://teamkokudo.org/