【vol.66】酷道324号

ドライブするだけで命に危険が迫る国道をご存知だろうか。「国道」と聞けば、生活道路よりも道幅が広く、きちんと整備されている道をイメージしがちだ。しかし、全国にはそんな常識を根底から覆す、とんでもない国道が数多く存在する。そんな危険でエキサイティングな国道のことを、我々は“酷道”と呼んでいる。

今回の酷道

車が走れるのは明け方だけ
オニギリが神々しい商店街酷道
長崎県長崎市浜町

国道であるにも関わらず、道の状態が酷い酷道。酷道といえば山間部の狭隘路が王道だが、街なかにも酷道は存在している。市街地だからこそ拡幅できない国道などだ。本誌のvol・44で紹介した住宅街をゆく国道166号や、vol・50のアーケード商店街となっている国道170号などが、街なか酷道にあたる。

今回ご紹介する国道324号も街なか酷道の1つで、国道170号と同じくアーケード商店街となっている。170号との最大の違いは、マニア心をくすぐるアレが設置されていることだ。

国道324号は長崎市を起点に、熊本県宇城市までを結んでいる。途中、有明を横断するが、道路は存在しない。34キロ弱の海上区間は高速船が結んでいる。海上国道も珍しいが、それよりも珍しいのが、長崎市内の商店街区間だ。国道の始点からたどると、長崎市の目抜き通りとしてスタートする。中島川に架かる中島橋の直前、多くの車両は直進するが、国道本線は左折している。その直後に右折し、商店街となっているのだ。
 商店街の入り口には、ここが国道であることを示す逆三角形の国道標識、通称〝オニギリ〟が堂々と掲げられている。酷道は、国道なのに酷い道だからこそ楽しくて面白い。どんなに道が酷くても、国道でなければ意味がない。国道であることを顕示するオニギリの存在価値は、特に酷道においてはとても大きい。オニギリは、酷道マニアの大好物だ。アーケード商店街の国道は全国に2箇所しかなく、もう一方の170号にはオニギリがない。オニギリがある324号は、唯一無二の存在なのだ。

神々しいオニギリを鑑賞した後、商店街・浜町アーケードを歩く。ここが国道であることを除けば、普通の商店街だ。繁華街の中心ということもあって、人の往来が激しい。商店街区間は、午前10時から翌日の午前5時までの間、歩行者専用道路となる。車両が通行できるのは、午前5〜10時までの5時間に限られる。国道170号は午後8時から翌朝7時まで11時間は車両が通行できたので、それと比べても条件は相当厳しい。

約400メートルでアーケードは終了する。そして、振り返ると、やつはいた。こちら側にもオニギリが設置されている。これは嬉しい。

アーケードは終了したが、実はこの先にも魅力的な酷道が続いている。アーケードの先は反対方向からの一方通行となり、300メートルほど先で国道は右折する。しかし、どこにも表記がなく、危うく直進しそうになった。このあたりのゴチャゴチャした感じが、とても魅力的だ。右折すると目抜き通りにぶつかり、国道本線は左折。この先は普通の国道となるのだが、交差点の脇に路面電車の終着駅があって、とても風情がある。

山間部のデンジャラスな酷道も楽しいが、街なかの酷道も楽しい。楽しい酷道は、全て訪ねておきたい。

浜町アーケードの前を路面電車が行き交う。

アーケードの先も雑然とした酷道が続く。オニギリの下にある矢印だけが、この先国道が左折することを知らせている。

鹿取茂雄

酷い道や廃れた場所に魅力を感じ、週末になると全国の酷道や廃墟を旅している。2000年にWEBサイト「TEAM 酷道」をスタート。新著『酷道大百科』(実業之日本社)発売中!
http://teamkokudo.org/