【vol.65】にわとりのいる暮らし No.44

我が家はほとんどエアコンは使わないので、真夏にスイカにかぶりついて涼をとるのが、風物詩となっている。そのせいか、娘のシュウは幼い時から暑くなると「スイカ!」「スイカは?」と連呼する。彼女のために、いつかは自分の手でスイカを育てられないものだろうか、と思っていた。

初夏、友人の畑の一角を好きに使わせてもらえることになり、別のところから大玉スイカの苗をもらった。こんな渡に船なことがあっていいのだろうか。

「スイカのタネってつい買っちゃうんだよね〜、夢があるもん」と苗をくれたKさんが言った。タネにロマンを感じるのは、みんな同じらしい。

畑の中の六畳ほどの広さを確保して、隅っこにニ株、苗を植えた。苗は反対側の通路に向かってどんどん伸びていく。やがて、キュウリやゴーヤと同じ黄色い花をつける。朝のうちに、雄花を摘み取り雌花にくっつけて、人工受粉させる。受粉すると、雌花の下部にある子房が丸くふくらんでゆく。ちゃんと縞模様がある、産毛に包まれた姿。なんだか拝みたくなるような神々しさだ。作物を育てる楽しみは、こんな姿に出会えることにある。

太陽の光をたっぷり浴びて、スイカは畑に足を運ぶたびに大きくなっていった。シュウにスイカを買ってほしいと言われると「畑にあるからもうちょっと待て」と防御できることが誇らしい(?)。八月の頭、ついに人の頭ほどに成長した。もう片方の苗はナゼか自然消滅してしまい、苦労の末、たった一個の収穫である。

ある日の夕方、もういいのでは、と思いスイカをチョッキリと切り取ってしまった。ウンショウンショと家に持ち帰り、まっぷたつに切ると、中はまだ薄ピンクで、収穫には早かった。受粉から何日後に収穫、と数えるものらしい(大玉の場合約40日)。

これだからちゃんと調べないと、と反省したが、未熟スイカを娘は喜んで食べてくれた。分厚い皮は糠漬けに。初めて畑で育てたスイカはほんのり甘く、さわやかな土の味がした。

服部家の生き物
「ナツ」 ♀ オヤブンと早く山に行きたいなー。
「ヤマト」 ♀ ノミ退治し、きれいになりました。
「サンちゃん(チャボ)」 ♀ 「キー丸(チャボ)」 ♀ 「シーシー(チャボ)」 ♀
仲良し3羽。シーシがまた卵を産み始めました。

服部家の人々
「ブンショウ」 ♂ 会社員生活に終止符を打ちました。
「コユキ」 ♀ 畑に通う日々。

「ショウタロウ」♂ 学生最後の夏、最近は筋トレが趣味。
「ゲンジロウ」♂ 原付の免許を取りました。
「シュウ」♀ 高校最後の夏が終わっていきます。

服部小雪

イラストレーター。美大時代に山の魅力に出会って以来、自然に近い暮らしに憧れる。さまざまな種類の鶏と、ヤギを飼うのが夢。夫の服部文祥と子どもたちとの暮らしを綴った『はっとりさんちの狩猟な毎日』(河出書房新社)が発売中。