ビーツと卵のピクルス
その強烈な赤い色で他の食材も同色に染めてしまう野菜、それがビーツだ。しかし、色から想像するのに反して味はあっけないほどに柔らかい。赤いビーツと卵のピクルスは僕の大学時代の思い出深い一品だ。
僕のロシアへの想い
ビーツはその強烈な赤い色とほんのり甘く土臭い香りがする独特の野菜で僕は好きだ(赤の他に白い種類もある)。ビーツを使う料理で最も有名なのはボルシチだろう。ロシア料理だと思っている人も多いけれど、ビーツを使った真っ赤なボルシチは実はウクライナの名物だ。
僕は大学時代、ロシアンレストランでバイトをしていて、今回紹介したビーツと卵のピクルスも人気メニューのひとつで、その頃はウクライナもソビエト連邦のひとつだった。ロシア語も勉強した。そんなせいでロシアにはそれほど悪い印象は持っていないし、ロシア料理やウォッカは今でも大好きだ。だから今回の戦争でも、ウクライナの人だけでなく、戦争に駆り出されて亡くなっていくロシアの人たちに対しても心が痛む。ロシア人の中にも反戦の意思を持つ人がいるという情報も聞いている。しかし、会って話せば普通にいい人だと思う人でも、なんの疑いも持たずにアメリカではトランプを、ロシアではプーチンを支持する人がいるのも、また事実だ。それは日本でもまったく同じだが。
ウクライナとロシアは複雑な兄弟のような関係で、おまけに他国の軍産複合体も「支援」の名のもとに参入して、この戦争、簡単には収まりそうもない状況になってしまっているが、何よりも「自分勝手な正義」を押し通すために、人の命をすり潰すのは、いい加減やめてほしい。
ビーツは北海道から沖縄まで日本全国で栽培されている。田原精肉店では精肉の他、メンチカツなどの惣菜類だけでなく、新鮮な野菜や卵も販売していて、この店だけで食材が揃うことも少なくない。
僕は「MASCOT」ブランドのブレンドスパイスを使うことが多い。個々に揃えると短期間で使いきれない量になってしまうからだ。今回はピクリングスパイスを使用。
漬け始めは卵もタマネギもこんな色だが、3日も経てば全部ほぼ同じ色に染まる。でもこの成分は水溶性なので、まな板などはすぐ水洗いすれば色はきれいに落ちる。
写真・文 鈴木アキラ
1960年生まれ。料理と刃物研ぎが大好きな飲んべえアウトドアライター。「アウトドアで活躍!ナイフ・ナタ・斧の使い方(山と渓谷社刊)」ほか著書多数。
【材料】
ビーツ中1個(約300g)、タマネギ中1/2個もしくは小1個、ニンニク1かけ、卵4~5個、リンゴ酢400cc、水400cc、砂糖大さじ6、塩小さじ2、ピクリングスパイス大さじ1~2(マスタード、コリアンダー、ローレル、ディル、クローブ、シナモン、オールスパイス、鷹の爪)、ブラックペッパー(ホールのまま)大さじ1
【作り方】
❶リンゴ酢、水、砂糖、塩、ピクリングスパイス、ブラックペッパーを鍋に入れ加熱。沸騰したら冷ましておく。このピクルス液はスイートピクルス全般に使えるので、多めに作っても問題ない。
❷ビーツは皮付きのまま、卵と一緒に茹でる。強火で熱し沸騰したら弱火にしてそのまま10分茹で、卵のみ取り出す。
❸ゆで卵の殻を剥く。ゆで卵の殻をきれいに剥くコツは、「お湯から出したらすぐ冷水に入れる(殻はそのままだが身が収縮する)」「殻全体に細かくヒビを入れる」「強い流水を当てながら殻を剥く(殻と身の間に水が入る)」の3つ。
❹ビーツはそのまま竹串や箸を刺してスーッと入るまで煮る。今回は茹でたが、ラップフィルムをかけて電子レンジで加熱してもいいし、オーブンで焼いてもいい。
❺薄い皮をむき、5mm厚に切ったら、さらに5mm幅程度の短冊切りにする。
❻タマネギは薄いくし切り、ニンニクはスライスする。
❼⑤と⑥を混ぜ合わせ、卵を交互に入れながら瓶に詰める。
❽ピクルス液を注ぎ、最低1日は漬ける。食べるときには卵を縦半分や6等分に切ると、ピンクに染まった白身がきれいだ。
❾2日目くらいになると白身に少し白が残る程度、3日目になると白身全体が赤く染まる。ゆで卵は後から追加してもいい。