【vol.63】にわとりのいる暮らし No.42

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最近、私と夫は顔を合わせると横浜の自宅とコフキ(文祥の猟師小屋)に何を植えるか、そればかり話している。春のせいなのか、年齢的なものか、たぶんその両方だろう。五十代を過ぎ、自由に動く身体で人生を過ごせる時間は、もう長くは残されていない、という事実がうっすらと日常の中に影を落とすと、その分、年に一回だけ出会う花や実の輝きが増していく。

集合住宅で育ったため、庭そのものがあこがれだった。ようやく自宅の庭(八〇坪の山の傾斜地、宅地ではないのでオマケでついてきた)を手に入れたが、子供のことや日々の雑事を言い訳に、ほとんど何も育てなかった。そんな中、梅、柿、柑橘類はほったらかしでも毎年実り、生活に恵みをもたらしてくれた。台所から出る野菜くずだけでなく、飼っていた小動物やニワトリが亡くなると、果樹の近くに埋葬するようになり、庭は、命がぐるぐるめぐる、私たちにとって、なくてはならない場所となった。

ひと昔前、夫が「庭でいろいろ育てて自給自足を目指すんだ」と瞳を輝かせて語ったとき、私は野菜を育てることにはあまり興味がなく、どこかで買ってきたゼラニウムの鉢などを玄関先に置いていた。文祥に「そんなものいらねえ。食べられるものだけ植えようぜ!」と言われても、私にはその言葉の真意が理解できなかったのである。

今の私は、ほぼ、食べるものを植えることにしか興味がない。一方で文祥は、とあるテレビ番組で、多様な花が虫を呼び、虫が鳥を呼び、生態系を豊かにすることを知り、花の苗を買ったりしている。歳月は人を変えるのだなあ、と思う。

さて、今年植え付けられた果樹の苗に実がつくまで五年、一〇年とかかることを考えると、かなり気の長い話だ。コフキには鹿や猿といった強敵がいるので、対策に悩まされそうな予感。リスクはあってもあれこれ挑戦して、次の世代へ橋渡しできればよいと思う。果実苗の値段とは、夢の値段なのである。

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服部家の生き物
「ナツ」 ♀ 体重が1キロ増えました。
「ヤマト」 ♀ 春はお出かけが多い。
「サンちゃん(チャボ)」 ♀ じっと人間をみつめています。
「キー丸(チャボ)」 ♀ サンちゃんより地位は低いが、声が良い。
「シーシー(チャボ)」 ♀ 後ろ歩きが得意です。

服部家の人々
「ブンショウ」 ♂ 1500メートルのマスターズに向けて調整中。
「コユキ」 ♀ 近所の畑で、夏野菜の準備にとりかかります。

「ショウタロウ」♂ 就職活動に苦戦中。
「ゲンジロウ」♂ 運転免許をとろうと思っています。
「シュウ」♀ いよいよ高3、また受験生となりました。

服部小雪

イラストレーター。美大時代に山の魅力に出会って以来、自然に近い暮らしに憧れる。さまざまな種類の鶏と、ヤギを飼うのが夢。夫の服部文祥と子どもたちとの暮らしを綴った『はっとりさんちの狩猟な毎日』(河出書房新社)が発売中。