サーロ
ウクライナの伝統保存食、サーロ。豚の脂肪の塩漬けである。ヘルシーかどうかは知らないが、脂身の甘味、旨味は格別だ。動物性脂肪という点と、汎用性の高さという意味では、実はバターと大差ない。
ウクライナと沖縄の共通性
ウクライナの伝統保存食で最も有名なものがサーロだ。サーロは豚の脂肪を塩漬けしたもので、そのままスライスしてパン(酸味のある黒パン)に乗せて食べたり、加熱して様々な料理に使ったりする。昔、ウクライナの人たちは「サーロ食い」とまで呼ばれていたという。
豚肉の塩漬けはイタリアではパンチェッタ、沖縄ではスーチカーと呼ばれているが、このサーロも同じようなものだと思ってもらっていい。ただパンチェッタやスーチカーが豚バラ肉を使って肉と脂肪が層になっているのに対して、サーロはそのほとんどが脂肪分であるという違いはある。サーロを加熱し、ラードを抽出して料理に使うということも行なわれていて、その脂が抜けて揚げカス状態になったものは絶好の酒の肴であり、これは沖縄のアンダカシーと全く同じものである。ウクライナも肉は豚肉がメインの国で、これも沖縄とよく似ている。
77年前、沖縄では多くの民間人を巻き込んでの地上戦(人口の3分の1が亡くなった)が行なわれたのだが、ウクライナでも今まさにそれと同じことが行なわれている。ウチナーンチュのオジイ、オバアはまるで自分のことのように「チムグリサン(肝苦しい=心が痛い、せつない、気の毒だ」と言う。本当に1日も早い終戦を願うばかりだ。この号が出る頃には、その報が聞けているといいのだが。
豚や牛の脂は肉を捌いた時に必ず出るものだが、スーパーの店頭に並ぶことはない。肉屋さんと仲良くなると、タダ同然の値段で売ってもらえたりする。田原精肉店の健二さん、イッペーニフェーデービル。
塩、刻みニンニク、ハーブ、ブラックペッパーを脂にしっかり揉み込む。単純に混ぜ合わせるのではなく、脂の中に浸透していくように「揉み込む」のが大切。
保存袋の中の空気をしっかり抜いて、冷蔵庫内で1週間ほど塩漬けし、熟成させる。途中、水分が出ているようならばこまめに捨てる。完全に脂のみだとほとんど出ない。
写真・文 鈴木アキラ
1960年生まれ。料理と刃物研ぎが大好きな飲んべえアウトドアライター。「アウトドアで活躍!ナイフ・ナタ・斧の使い方(山と渓谷社刊)」ほか著書多数。
【材料】
豚の脂300~500g、塩30~50g(脂の10%の量)、ローレル2~3枚、ニンニク大2~3かけ、ブラックペッパー大さじ1、ハーブミックス大さじ2
【作り方】
❶豚の脂を10×10cm程度の大きさに切り分ける(あまり大きいと塩が浸透しにくいため)。
❷みじん切りにしたニンニク、砕いたローレルの葉、粗く潰したブラックペッパー、ハーブミックス、塩を混ぜ合わせる。塩は精製塩ではなく、海塩または岩塩を使用すること。仕上がりが全く違う。精製塩しかないなら、この脂の塩漬けは作らない方がいい。
❸①に②を擦り込む。力を入れてしっかりと揉み込む感じ。
❹ジップロックなどの密閉式ポリ袋に入れ、できるだけ空気を抜いた状態で口を閉じる。
❺冷蔵庫で1週間ほど寝かせる。ウクライナでは冬の時期に作るものであったとか。
❻水分が出ているようならば、水分のみ捨てる。豚バラ肉の塩漬けであるパンチェッタやスーチカーでは肉の部分からかなりの水分が出る。
❼塩を拭き取り、スライスして食べる。酸味のある黒パンなどに乗せて食べるといい。加熱して炒め油として使ってもいい。
❽余った分は冷凍しておき、食べる時に解凍して使う。
❾今回は塩を揉み込む方式を取ったが、飽和食塩水(1ℓの沸騰した状態の水に対して397gの塩を入れて煮溶かしてから冷ましたもの。これ以上塩が溶けない状態になった水のこと)に漬けるという方法もある。