【vol.63】酷道286号

ドライブするだけで命に危険が迫る国道をご存知だろうか。「国道」と聞けば、生活道路よりも道幅が広く、きちんと整備されている道をイメージしがちだ。しかし、全国にはそんな常識を根底から覆す、とんでもない国道が数多く存在する。そんな危険でエキサイティングな国道のことを、我々は“酷道”と呼んでいる。

今回の酷道

ふらっと1時間で峠越え
手軽に堪能できる酷道
宮城県仙台市〜山形県山形市

この国道286号は、宮城県仙台市と山形県山形市を結ぶ70キロ弱の路線だ。古くからある笹谷街道を踏襲しているため、交通量が多く、しっかりと整備されている。

普通に走っている限りでは、終始快適な道路だ。それでは、どこに酷道区間があるのかというと、宮城県と山形県の県境にある笹谷峠だ。

地図を見ていただければ分かるが、国道286号は大部分の区間で、高速道路である山形自動車道と並行している。笹谷峠の区間だけが酷道状態となっているが、峠の手前で山形自動車道へ誘導される構造となっている。実際、ほとんどの車が山形自動車道へと入ってゆく。普通に走っていれば、酷道を走ることはないのだ。

仙台市街から車で走ること1時間、笹谷峠が近づいてきた。当然だが、私は山形自動車道には入らない。この先に待ち構えている酷道区間のために、ここまで来たのだ。

笹谷IC入口を過ぎるや否や、これまでの快適だった道路は酷道と化す。この先が酷道であることを予告するかのようにゲートが設けられ、その隣には通行規制の標識が掲げられている。ご丁寧に“諸車脱輪注意”とまで書かれており、これを見たらテンションが上がらざるを得ない。

ゲートと過ぎると木々が生い茂り、鬱蒼とした山道となった。展開が早い。クネクネとした1・5車線ほどの道が続き、つづら折りでグングン標高を稼いでゆく。

酷道を走って15分ほどで笹谷峠に到達したが、先ほどまで晴れていたというのに、雨が降り霧も出ている。笹谷峠の標高は906メートル。山の天気は変わりやすいというが、ここまで極端なのも珍しい。

峠に着いて嬉しかったのは、酷道区間に入ってから一度も見ていなかった国道標識が設置されていたことだ。酷道の醍醐味は、国道なのに酷いということであって、ただ道が酷ければいいというわけではない。国道であることを証明してくれる国道標識の存在意義は、とても大きい。少し残念なのは、道幅が広くなっている場所に設置されていたことだ。

笹谷峠の手前までは、普通車同士であれば対向車とすれ違うことが出来る道幅だったが、山形県に入るとそれも難しくなった。酷道では、道幅は狭ければ狭いほど楽しい。

わくわくしながら峠を下っていると、酷道区間で2つ目となる国道標識が現れた。進行方向とは反対側を向き、カーブミラーの外側という分かりにくい位置にあったが、見逃すはずがない。国道標識は錆びてボロボロになっていたが、道の酷さと妙にマッチしているように感じた。

満足して峠を下りきると、山形自動車道の関沢ICの入口が見えてきた。ここから先の国道は再び快走路となり、1時間弱の楽しい酷道ドライブは終了した。

この区間、高速道路を利用すると5分で走り抜けることができる。料金は210円だ。210円で山道を回避して1時間短縮できると考えるか、210円を節約しつつ気軽に酷道を堪能できると考えるかは、あなた次第だ。

ヘアピンカーブが連続し、山を登ってゆく。

カーブのアウト側に離れて設置されていた国道標識。いったい何があったのかというぐらいボロボロだった。

鹿取茂雄

酷い道や廃れた場所に魅力を感じ、週末になると全国の酷道や廃墟を旅している。2000年にWEBサイト「TEAM 酷道」をスタート。新著『酷道大百科』(実業之日本社)発売中!
http://teamkokudo.org/