干し芋
たまに芋嫌いの男性がいるけれど、僕は大好きだ。特にサツマイモを干した「干し芋」は独特の歯応えと優しい甘さで、炭火で軽くあぶると、たまらなくうまい。晴れが続く関東地方の冬の日、物干し場の端で作るのに最適な保存食だ。
関東の冬に最適な保存食
僕は青森生まれで、毎年11月から3月までは雪の中で暮らしてきた。大学時代は仙台で過ごしたが、冬の間は毎日曇り空で雨の多い日々だった。なので、東京の冬がこんなに晴天続きなのには少し驚いた。
寒くて晴れが多い場所で作る保存食は多い。燻製がその典型だが、今回紹介する干し芋作りもそのひとつだ。気温と湿度が高いと干している間に腐敗してしまうが、寒くて乾燥しているとそれを防ぐことができる。風が強いともっといい。干し芋の名産地として知られる茨城は、まさにその環境下にあると言える。
サツマイモは漢字で書くと薩摩芋で、九州薩摩地方から全国へ伝わった芋ということで付けられた名なのだが原産は中南米。中南米からヨーロッパ、アジア、中国を経て沖縄から九州へ伝わった。九州、沖縄では唐芋(中国から来た芋)、もしくは単純に芋と呼ばれ、主食にしていた時代もあったと言われている。沖縄民謡に「芋の時代」という歌があるほどだ。米が普通に食べられるのは裕福な家庭だけであったらしい。
痩せた土地でも育ち、逆に肥料を与えるとツルや葉ばかり伸びて芋が太らないなどの特徴があるといい、救荒食物の典型で、大飢饉から鹿児島を救った例もある。もう今さら食べたくないと思うほど、芋しか食べるものがなかった時代のことも想像してみよう。今日は何を食べようかと考えるのは、飽食の時代ゆえの贅沢な悩みと言える。
左側が紅あずま、右側が安納芋。紅あずまの方が皮も中身も赤みが強く、安納芋の方が黄色味が強い。今回、甘味は同じ程度だった。芋の種類よりも、産地(土)による違いの方が大きい気がする。当然かも。
1時間程度、時間をかけて蒸す。一番太い芋に箸を刺して蒸し具合をチェック。全部出すと冷めてしまうので、小さいものから1個ずつ取り出して、熱いうちに皮を剥く。
日当たりと風通しの良い場所で、干し網を使って干す。スライスしたもので4~7日かかる。味見をしながら乾き具合のチェックをするのも、なかなか楽しい。
写真・文 鈴木アキラ
1960年生まれ。料理と刃物研ぎが大好きな飲んべえアウトドアライター。「アウトドアで活躍!ナイフ・ナタ・斧の使い方(山と渓谷社刊)」ほか著書多数。
【材料】
サツマイモ(紅あずま、安納芋など甘味の多いもの)8~10本
【作り方】
❶収穫後すぐのサツマイモの場合は1週間ほど乾燥させてからの方が熟成されて甘みが増すとされているが、市販のものは既に熟成されたものと考えていいだろう。熟成させたい場合は10~13度の場所で保管するのが望ましい。生の状態で凍らせるとボソボソになってしまう。
❷まず、サツマイモを水洗いしてタワシなどで土汚れを落とす。
❸皮付きで丸のまま、蒸し器で1時間ほど蒸す。途中、時々箸を刺してみて蒸し具合を確認する。
❹蒸し上がったら、天地の端の部分を切り落とし、熱いうちに皮を剥く。ヤケドに注意。
❺粗熱が取れたら約1cmの厚さで縦にスライスする。スライスせず丸干しにしてもいい。
❻干し網に入れて干す。重ならないように並べること。
❼晴れの続く日を見計らって天日で連続4~7日乾燥させる。丸干しは7日~2週間近くかかる。途中時々裏返して様子をみること。夜露が心配なら、夜間は室内に入れるといい。
❽糖度が高いと澱粉成分が結晶化して白い粉をふく時もある。カビと間違えないように。
❾仕上がり後の保存には乾燥剤を入れておくこと。表面が乾いても中には水分が残っていて、カビが生えることもあるので注意が必要。
❿そのまま食べてもいいが、火で軽くあぶって食べるとうまい。