ドライブするだけで命に危険が迫る国道をご存知だろうか。「国道」と聞けば、生活道路よりも道幅が広く、きちんと整備されている道をイメージしがちだ。しかし、全国にはそんな常識を根底から覆す、とんでもない国道が数多く存在する。そんな危険でエキサイティングな国道のことを、我々は“酷道”と呼んでいる。
今回の酷道
コロナ禍により酷道も変化
さらに過酷になっていた
熊本県下益城郡美里町〜熊本県人吉市
新型コロナウイルスという大きな災いがもたらされて、1年以上が過ぎた。行動が大きく制限され、ライフスタイルそのものも変化しつつある。私も出かける際は誰もいない場所を選び、基本的な感染症対策を徹底するように心がけている。
ゴールデンウィークに、私は九州を訪れていた。熊本の市街地から国道445号を東へ走る。ほどよく山間部に入ったところで重複していた国道218号と別れ、南下する。今回の目的は、この国道445号だ。
津留川に沿って走っていくと、すぐにセンターラインが消えた。集落を抜けて山間部へと入ってゆく。順調に酷道を堪能していたが、15分ほど走っていると、頻繁に対向車とすれ違うようになった。何度かバックして、対向車をかわす。ゆっくり走っていると後続車もやって来るため、のんびりしていられない。
酷道の多くは、大型連休でもほとんど交通量がないのだが、ここは事情が違っていた。沿道に秘境と呼ばれる観光地があるため、出かける人が一定数いるのだろう。
酷道を走っているうちに、前に何台も車が連なるようになっていた。カーブを繰り返しているため先頭は見えないが、10台以上は続いているだろう。時々対向車が現れてストップするが、さすがに対向車がバックしてくれた。
そんなことを繰り返しながら二本杉峠に近づいていた時、車列が完全に停止してしまった。5分10分と経過するが、一向に動く気配がない。いつ動き出すか分からないため運転席を離れるわけにはいかず、どうしたものかと思っていると、前方から男性が走ってきた。前方の車のドライバーに何か言いながら、こちらに近づいてくる。
男性の話では、対向車との行き違いができなくなり、ストップしているとのことだった。こちらは十数台の車が連なっているが、対向車も十台ほど来ている。それに対して待避スペースは数台分しかない。このままではどうしようもないので、最後尾の車両から順番にバックしてもらっているとのこと。私も待避できる場所へ車を入れ、後続車が来たら、最寄りの待避場までバックするようドライバーにお願いした。
数十分後、この絶望的な状況がようやく打開され、何とか車列が進みはじめた。酷道に車が殺到することの恐ろしさを、身をもって経験した。あの状況で、後続車がさらに十台以上来ていたらと思うと、ゾッとする。
その後、なんとか二本杉峠に到着すると、小休止した。峠を過ぎても非常に細い道が続くが、対向車が来ないだけで快適に感じる。
コロナ禍によって街なかから人が減ったが、山に人が押し寄せている。密を避けようと秘境に人が殺到した結果、酷道が車であふれるという事態に陥った。酷道では、土砂崩れでも雪崩でもなく、交通量の増加で遭難しかねない。コロナ禍における酷道は、交通量にも注意が必要だ。
二本杉峠付近に到着。大変な道のりだった……。
二本杉峠を過ぎた後も、白線の意味を考えさせられる細い道が続く。
鹿取茂雄
酷い道や廃れた場所に魅力を感じ、週末になると全国の酷道や廃墟を旅している。2000年にWEBサイト「TEAM 酷道」をスタート。新著『酷道大百科』(実業之日本社)発売中!
http://teamkokudo.org/