【vol.57】第25回 伝統保存食入門

稚鮎の甘露煮

その小さなサイズの体の中に本来の香りをしっかり秘めた魚。それが鮎の幼魚「稚鮎」である。春の堤防釣りで最適な相手でもある。楽しく釣って、美味しく食べる。甘露煮ならば、日持ちがするから、その味をしばらく楽しめる。

GO TO 稚鮎釣り

釣りはソーシャルディスタンスなるものが確保された遊びだ。当然だが隣とくっついていると糸が絡んでしまう。インドア遊びに飽きたら、春の一日を堤防での釣りで、のんびり過ごすのもいいのではないだろうか。

3月の中旬から5月くらいまで、河口付近の海には遡上前の稚鮎が集まってくる。友釣りは川だが、稚鮎釣りは海だ。川に立ち込まなくてもいいから服もラフでいい。小アジ釣り用のサビキ仕掛けがそのまま使える。リール付きの竿でもいいが、シンプルな延べ竿の方が僕は好きだ。

稚鮎はサイズこそ小さいけれど、鮎の味がしっかり凝縮されていて、「なりは小さくてもオレは鮎だぜ、なめんなよ!」という感じがする。鮎の気の強さがすでに顔にも現れている。元気で生意気なワルガキの顔だ。人間の子供には、最近こういうのが少なくなって少し寂しい。

稚鮎を保存食にするなら前に紹介したコンフィか、今回の甘露煮がオススメだ。甘じょっぱく煮詰めてもしっかり鮎の香りがして、「さすがは鮎!」と思ってしまう。今回は使っていないが、同時期に出回る山椒の実を入れてもまたオツな味わいだ。

と、ここまではいい。それもこれもキレイな海があってこそだ。原発汚染水海洋放出など、とんでもない話であることは言うまでもない。それほど安全だとのたまうのならば、東京の水源地に流してみろと言いたい。

【材料】
稚鮎20尾程度、醤油100cc、日本酒50cc、みりん50cc、砂糖150g、ショウガ・実山椒(適宜、なくても可)

【作り方】
❶稚鮎の表面のヌメリをこそげ落とす。流水で洗った後で水気を拭き取る。
❷100~150ccの水、醤油、日本酒、みりん、砂糖を大きめの鍋に入れて煮立てる。鍋の大きさは入れた稚鮎が重ならないサイズが望ましい(理由は手順⑦で)。
❸沸騰している煮汁の中に、数匹ずつ稚鮎を入れていく。
❹稚鮎を入れるごとに煮汁の温度が下がるので、煮汁が沸騰したタイミングで次の稚鮎を入れていく。沸騰した状態に入れることで稚鮎の表面が締まり、煮崩れを防ぐことができる。
❺アクが出たら取る。
❻アルミホイルで落とし蓋をする。落とし蓋をしてからは弱火で煮る。
❼底が焦げついていないかどうかチェックしながら煮るが、煮崩れを防ぐために稚鮎にはできる限り触らないこと。
❽ショウガや実山椒を入れるなら、煮汁が半分程度になってからにすること。最初から入れていると香りが飛んでしまう。
❾煮汁がなくなったら出来上がり。作った翌日からの方が味がなじんでうまい。

稚鮎釣りは友釣りよりも1シーズン以上早くから楽しめ、道具立てや身支度もはるかに簡単で、子供と一緒にも楽しめる。甘露煮のための調味料は、基本的に佃煮と同じものと考えてかまわない。

稚鮎の表面についているヌメリを包丁の背、もしくは粗めのスポンジでこそぎ落とす。流水でしっかり洗い流してから、水気をきちんと拭き取っておく。

稚鮎ができるだけ重ならないように大きな器で煮るのがポイント。煮ると身が柔らかくなり崩れやすくなるので、できる限り触らずに煮詰めていくのが望ましい。

写真・文 鈴木アキラ

1960年生まれ。料理と刃物研ぎが大好きな飲んべえアウトドアライター。「アウトドアで活躍!ナイフ・ナタ・斧の使い方(山と渓谷社刊)」ほか著書多数。