【vol.54】にわとりのいる暮らし No.33

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長期山行や自分の古民家へ、すいすいと出かける夫を見ていて、うらやましく思うことがある。正確にはうらめしい。いいよね、あなたは自由で……と思いながらもう23年経ってしまった。子供のこと、家の雑事、動物の世話。私がいなかったら誰がやるの?と思い込んでいる状況をたまにはリセットしたい。

「あたし、小蕗にバカンスに行ってくるね」

「へーい」次男と長女が無表情で答える。

「ベランダの植木鉢と畑に、朝と夕、水やってね。それから月曜日の昼に生協が……」

「わかったわかった」

見慣れているはずの電車が、魔法の乗り物のように、駅を滑り出す。遊びに行くのにどこか後ろめたさを感じる時代だ。マスクは本心を隠すのに都合が良く、平静を装っているが、心はずっとわくわくしている。

電車を降り、バスに乗り、山道をたどって、汗をかきかき小蕗に到着した。家の中に入ると、何もなかった暗い土間に、広々とした台所ができていた。壁が抜かれ、窓がはめ込まれている。修復した文化かまども、ちゃんと働いているようだ。

今回、一番楽しみにしていたのは庭の五右衛門風呂だ。初めてここを訪れた時は、風呂場は荒れ果て、ゴミ捨て場となっていたが、見ると鉄の窯がモルタルで富士山型に固められ、ボロいけれどいい感じのお風呂になっている。すごい! 私は修復作業をした夫とその仲間を心から尊敬した。

鉄製の釜の底は熱いので、丸い木の板を湯に浮かべ、それに乗って釜の中に身を沈める。「おおー」

人生初の五右衛門風呂。じんわりと、優しい暖かさが身体に染みわたっていく。釜の下でパチパチと薪がはぜる音だけが聞こえる。ゆったりと、山の時間が流れていった。

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服部家の生き物
「ナツ」 ♀(犬)いよいよ狩猟シーズンです。
「ヤマト」 ♀ (猫)ナツが山に行くと、家の中でのびのびできます。

服部家の人々
「ブンショウ」 ♂ 『サバイバル家族』(中央公論新社)好評発売中です。
「コユキ」 ♀ 『サバイバル家族』に関しては、いろいろ言いたいことが……。

「ショウタロウ」♂夏に車の免許を取り、父を乗せて初めて小蕗に行きました。
「ゲンジロウ」♂ 夏の間、ひとり暮らしの友人宅に居候していました。
「シュウ」♀ 800m、1500m、駅伝の練習。毎日が嵐のよう。