ドライブするだけで命に危険が迫る国道をご存知だろうか。「国道」と聞けば、生活道路よりも道幅が広く、きちんと整備されている道をイメージしがちだ。しかし、全国にはそんな常識を根底から覆す、とんでもない国道が数多く存在する。そんな危険でエキサイティングな国道のことを、我々は“酷道”と呼んでいる。
今回の酷道
これぞ酷道の王道!
開かずの酷道をゆく
岐阜県飛騨市〜富山県富山市
国道なんて、いつでも走れると思っていたら、大間違いだ。山間部の酷道には、多くの場合、冬季閉鎖期間が設定されている。岐阜・富山県境を越える国道471号は、例年7ヶ月間程度、冬季閉鎖される。また、融雪と同時に災害復旧工事が始まるため、規制解除がさらに延びることも少なくない。8月や9月にようやく規制が解除されたかと思うと、11月にはまた冬季閉鎖に入る。1年間のうち通行できる期間は、数か月間しかないのだ。
この酷道は、私も過去に何度かハマっている。「9月だし、さすがにもう通れるだろう」そんな軽い考えが、悲劇を招く。現地まで行ってみたものの、ゲートで固く閉ざされており、結局、富山に行く計画を断念せざるを得なくなった。
身をもって得た教訓を活かし、事前に道路情報を調べた。規制が解除されても、大雨や台風ですぐに再び通行止となる可能性も大いにある。規制が解除されたその週末に、訪れることにした。
飛騨の大動脈・国道41号から分岐し、国道471号へと入ってゆく。集落を1つ過ぎて右折すると、すぐに酷道区間に突入する。ただ道幅が狭いだけではなく、道がヒョロヒョロだ。左右にデコボコして道幅がいびつな上に、路面もフラットではなくアスファルトが波打っている。不安定な路面に、ガードレールの無い川沿いの道。安心感は皆無で、いきなり強烈な洗礼を受ける。
そして1キロも走らないうちに、路面はさらに荒れてくる。アスファルトが風化し、その上に雑草が生えているのだ。舗装路なのに、雑草によってワダチが形成されている。この光景は、さすがに草が生える。
雑草は、路面だけではなく道の左右からも浸食し、道幅をさらに狭めている。自然と人工物が融合した荘厳な眺め……ではあるが、運転する身としては、それどころではない。
「今どき林道でももっと整備されてるだろ!」と言いたくなるような酷道が延々と続く。峠を越えて下りはじめると、幾分か路面の状態はマシになった。しかし、今度は別の脅威が襲いかかってくる。
規制が解除された直後とあって、随所に災害の爪痕が残っていた。落石によってボコボコにされたガードレール、土砂を撤去したばかりの路面、積雪の重みで落ちてしまった国道標識など。自然の脅威を肌身に感じながら、慎重に下ってゆく。
峠からだいぶ下ってきたが、谷は深く、相変わらずガードレールはない。一瞬の判断ミスが死に直結する危険な道が続く。生死の境というのは、意外と身近なところにある。
人家は無いが、電柱や田畑が見えてきた。ようやく市街地が近づいてきたことを察知する。酷道区間を抜けて最初に民家が見えた時は、何ともいえない安堵感に包まれる。信号機やコンビニがこんなに恋しく感じる瞬間は、他にないだろう。このあとは、もちろんコンビニに吸い込まれていった。
路面から草が伸び、道幅も余裕がない。
とても国道とは思えない自然の中をゆく。
鹿取茂雄
酷い道や廃れた場所に魅力を感じ、週末になると全国の酷道や廃墟を旅している。2000年にWEBサイト「TEAM 酷道」をスタート。新著『酷道大百科』(実業之日本社)発売中!
http://teamkokudo.org/