今年は、新型コロナの影響で春を感じにフィールドに出られなかった。アウトドアマンはかなり鬱憤が溜まっていると思う。この夏も思いっきり遊べないのかと思うとたまらなく寂しい気持ちになる。家から外に出て帰るまで誰とも接触しなければいいんじゃないかと考えてしまう。ダメなのかもしれないが、多動の私には耐えられない。そもそも、田舎暮らしで買い物以外は誰とも会わない生活なのであまり変わりはないのだが、マスクだけはちゃんとしている。
新型コロナによる緊急事態宣言が解除されるのを待ち、今回のテーマを実行してきた。この素材は数十年前に一度試してみて大失敗をした苦い思いがあるので、リベンジを果たすために挑戦する。素材はなんとアメフラシ! アメフラシは貝の仲間で、食べられない生き物ではない。大きいし、数も多いし、簡単に見つけられるので、美味しく食べられれば最高な食材なのだ。
前からなんども言っているが、海の生き物には地域で漁業権が異なり、こんなもん採っていいだろうと思っていても漁業権に引っかかり採れないものがある。まずは、採集しに行く場所の管轄の漁協に連絡し、採ってもいいものか調べる。めんどくさいが、許可さえ貰えば間違いはない。これは、獲物にもよるが個人的にであれば大体は大目に見てくれるのだが、取材やテレビなどではそうはいかないのだ。
アメフラシは九州地方の一部地域で食べていると聞いたことがあるが、それを見たこともないし、食べたこともない。数年前はただ海水で茹でただけで、しょっぱくて硬く、まるで塩味の消しゴムをかじっている感じだった。とても食えたもんじゃなかった。今回は少し考え料理をした。
まずは磯に行って採集だ。4~6月はアメフラシやウミウシ類の産卵期ということもあり、磯は賑やか。潮間帯の磯であれば簡単にアメフラシは見つけられる。磯遊びの鉄則として、潮の引く大潮の時間帯を狙って出かける。足元には磯足袋を装備。潮が上げてくるまで、潮間帯の岩場を見て回る。産卵ピークなのかあっちこっちにアメフラシは見つかった。せっかく磯へ来たのだから磯遊びをしていくことにした。ヒトデの仲間や貝類、ハゼ類や海藻など、たくさんの生き物で大にぎわいだ。海の生物を知るには、ダイビングやシュノーケルで潜るより、時間をかけてみて回れる潮間帯の磯が楽しい。生き物の種類も多いし、何より手に取って見ることができるし苦しくない。この時期の磯遊びはなんと言っても青いウミウシ、アオウミウシだ。青と黄色の模様で、2~4㎝くらいの小さなウミウシ。この時期の磯遊びでは必ず探してみている。磯の潮間帯では、普段は深いところにいる生き物が産卵のために磯へ上がって来ることも少なくない。このアオウミウシもその仲間で、アメフラシと貝類だ。産卵期だから当たり前なのかもしれないが、広い磯でどうして同じ場所に集まれるのか不思議に思う。1匹見かけると近くに何匹か見つかることが多い。ヒトデやウニはもう少し前に産卵期を迎える。1~3月頃の磯は、ヒトデだらけ、ウニだらけになる。(地域や固体で多少時期も変わる。)
ひと通り磯を見て回り、上げ潮に合わせて手頃なアメフラシを4匹バケツに入れた。料理するまで生かしておくために、電池式ブク、エアーレーションしながら持ち帰ること。
装備
日焼けをしたくない人は濡れてもいい長袖長ズボンに帽子。足元は滑らないように磯足袋。なければ濡れてもいいシューズに大きめの靴下をシューズを覆うように履かせる。私はなんでも触った感触を覚えたいので素手だが、危ないので軍手やグローブは必須。
どこの磯でも見つかる貝殻を持たない貝の仲間。ウミウシと同じだ。陸でいうとナメクジ?なのかな。しかし、アメフラシには貝殻の名残がある。大きさは25cmを超える。
潮間帯の磯を見て回ると、いろいろな生き物が見えてくる。魚は素早く逃げ、それ以外はゆっくりと動いている。
今日の食材ゲット。ヌルヌルのクニャクニャな感じ。形はウミウシの名の通り頭の左右に突起がある。小さいが目もついている。
アメフラシの煙幕。アメフラシにいたずらをすると紫色の汁を出す。これで身を守る。磯を歩いて知らずに踏むと海水が染まってわかる。
アメフラシの卵。これはいかにも食べられそうな感じだ、場所や季節で毒があることがわかっている。ポン酢ですすりたいがやめた。
こんなのもいたよ!
大人気アオウミウシ。小さく見た目も綺麗でかわいい。5~7月くらいが産卵期でこの時期は磯で見つけられる。
タツナミガイ。隠れていることが多く砂に潜って姿を隠している。アメフラシの仲間で同じように紫色に汁を出す。
右からニセクロナマコ、クロナマコ、マナマコ。ナマコはウニやヒトデの仲間で棘皮動物に属す。
ちょっと小さな星型のヒトデ、イトマキヒトデ。俺は一人で何してんだ(笑)。産卵期はもう過ぎたがまだ磯にいた。
アメフラシの煮付け
1.捕まえてきたアメフラシをゴミや海藻などの付着物を水できれいに洗い流す。紫の汁を出すが気にしない。
2.体の中部に縦に包丁を入れて内臓を全て出す。体の中から大量の海水も出てくる。内臓の多さに驚く。
3.切り口から体をひっくり返すようにまくり、内臓を全て出し洗う。内臓を出すときに貝の名残が出てきた。
4.体の表面のヌルヌルを落とすため、捌いたアメフラシを塩で何度も揉む。最初の大きさと比べ小さくなった。
5.砂糖・醤油・みりん・日本酒と水で2時間煮込む。この2時間がポイントになる。煮汁は多めに入れる。
6.アルミホイルで落としぶたを作り、中火で様子を見ながら2時間ゆっくり煮込む。煮汁が蒸発しないようにこまめに覗く。長く煮込むことでとても柔らかく仕上がる。
前に1度このアメフラシに挑戦したとき、もう2度と食わないぞと思った。しかし、アメフラシも貝ならば、きっと美味しく食べられるはずと今回再挑戦。アワビの煮付けをヒントに長く煮込んでみたら、柔らかく美味しく出来上がった。ものすごく美味いわけではないが食える程度に美味しい。
捌く前のアメフラシ。20cmは超えていた。これを煮込むとなんとどんどん小さくなっていく。
軽く煮込んだだけでこんなに小さくなってしまった。体のほとんどが水分でできている証拠だ。まるで、フィギュアだ。
日本野生生物研究所 奥山英治
主にテレビ番組やアウトドア雑誌や本などを中心に、自然遊びや生き物の監修などで活躍中。「触らないと何もわからない」をモットーに子供向けの自然観察会も行っている。著書に『虫と遊ぶ12か月』(デコ刊)などがある。