【vol.51】笹薮と傾斜と小川を利用する生活を作る

新たな計画が始まる。まだ森が目覚める前に山の道具作りをする。生木を加工するのは水管が開く前がいい。森の笹を刈りながら親子で木を削る。贅沢な時間がそこにはある。かつてここを開拓した先人たちもそうしたのだろうか? 僕はここの開拓者なのだ。

写真・文/荒井裕介

ここで新たな計画を進める準備をする

開拓当初、笹を刈ることから始めた。森の奥を流れる小川まではまだ遠く、背の高い笹に覆われた森を利用し尽くすためだ。小川近くは斜度がキツく開拓には苦労を強いられるが、林道付近よりも生活に必要な物は多くある。しかし笹の根は網のように地面を這い、雪に負けぬよう所々深く潜り込んでいる。密集した笹を刈ることはこの森で一番キツイ作業になる。背の高い笹は刈っても倒れず、互いに絡まり運び出すのも困難だ。少し刈っては運ぶを繰り返し、約1時間で山になるほど刈ることができるが、刈った面積はそれほど広くない。マチェットを持つ手が張り、腰が痛くなる。まだ氷点下だというのに汗が滴り、作業をやめると一気に体温を奪われる。

体を温めるために焚火の側で、先日街路樹の伐採で手に入れたイチョウの木でグリーンウッドクラフトを始める。どんな木でも生木は柔らかく刃物での加工が容易だが、生木を扱うにはその木の性質を知る必要がある。この手の加工にイチョウはお勧めだ。まな板に使われる木だからだ。水に強く割れにくい特性はまさにグリーンウッドクラフト向きだ。

笹薮の淵にあったミズの木で娘と僕のストックを作った。マタギが愛用するストックは合理的で素朴な美しさがある。もちろんこれらもここの開拓に必要なアイテムになる。なぜ新たな土地を切り開くかというと先日僕が手に入れた粗大ゴミを利用してここにインフラのある生活を作ろうとしているのだ。

春になると次々芽吹く笹はこの森の厄介者

1時間程度の作業でこんな山になるほどの笹が刈れる。笹を刈るより運ぶのに苦労する。これもしっかりと枯らせば焚きつけとして利用できる。森の財産ではあるが、この作業は小屋を建てるより重労働なのだ。

森に棲むなら道具も自作したい!
森の素材を活かした道具作り

グリーンウッドクラフトはまず材を知ることから始めよう。これは森に棲むなら必要な知識で、道具に適した木を選ぶのも大切なプロセスなのだ。水分を含んでいても加工しやすく割れにくい材を選び作り出す。雪山でも使える古のストックは野営にも使える魔法の杖だ。

ーイチョウの器ー

イチョウの丸太をチェーンソーで切る

左/森には特別な木工作業場がない。倒木や切り株が僕の作業場だ。チェーンソーで立て切りをするのにジグはいらない。トラック用のバックル式ベルトで固定すれば板だって作れる。
右/木の形状を活かしながら縦割りしたイチョウを適当なサイズに切り分ける。これが器に変わる。木のうねりや木目を見ながら作業すれば加工方法が決まる。

斧で皮剥きをして大まかに形成する

右/切り分けた材の皮を剥く。アックスで皮を剥きながら基本となる器の形を作り出す。ハンドルの持ち位置で大まかな作業と細かい作業ができるのもアックスの魅力だ。
左/あらかじめアックスで形を作る。少し水分を飛ばすために作業はここで一旦終わり。イチョウはまな板にも使う水に強い木で、グリーンウッドクラフトに適した材と言える。残りは自宅で行う。

ハマグリのように合わさる加工をして完成

ナイフでさらに成形しハマグリのように合わさるように加工する。合わせは紙やすりの上で平らに慣らし、スプーンナイフで彫り込んでいく。底面の平らな部分はアックスで成形後、紙やすりで慣らすくらいに薄く彫り込んだら、軽石と紙やすりとトクサで仕上る。ベルト溝をナイフで彫りオイルを入れれば、手のひらサイズの器が2つ完成。山で使う際、内側と外側を重ねると汚れが付き不衛生になる。互いに使用面を重ねることで衛生面はもちろん昼飯を運ぶ器にもなる。僕はこれが山で欲しかった。

ーマタギストックー

ミズの木を探す

幹の途中に環常に枝が生えるこの木をマタギから「ミズの木」と習った。正式名称は知らないのだが雪山はもちろん夏山でも使える杣人のストックになる。真っ直ぐに伸びる性質も杖として使いやすい木なのだ。

両端をカットする

左/枝は約2〜3cm程度残しカットする。太めの枝を少し長く残すと斜度のキツイ斜面で爪として使え、タラの芽などを採るのに役立つ。右/柄の部分は上から手のひらで体重をかけても痛くないように面取りをする。穴をあけて紐を通して首にかけても使いやすい。

マタギの知恵が 詰まった杖が完成

深い落ち葉の上は娘にとって歩きにくい場所だった。斜度がキツくてもこれに頼れば脚力を補ってくれる。山仕事には重要な道具だ。鳥の足のように広がった枝が浮力となり沈まない。真っ直ぐで素直な幹はたわまず体重を預けられる強さを持っている。

ブッシュクラフター 荒井裕介

ワイルドライフクリエーターとして新たに進みだした。自然に従い生きる。それを実行中! 自身のYoutubeチャンネル「Youちゃんねる」も進行中!荒井裕介Busch Craft & Bug Out Schoolもオープンしました。