ドライブするだけで命に危険が迫る国道をご存知だろうか。「国道」と聞けば、生活道路よりも道幅が広く、きちんと整備されている道をイメージしがちだ。しかし、全国にはそんな常識を根底から覆す、とんでもない国道が数多く存在する。そんな危険でエキサイティングな国道のことを、我々は“酷道”と呼んでいる。
今回の酷道
ヘアピン?ヘヤーピン?
カーブだらけの酷道
徳島県美馬市美馬町〜徳島県三好市東祖谷
四国の酷道といえば439号(通称ヨサク)が有名だが、その他にも魅力的な酷道が数多く存在する。四国山地が急峻な地形をもたらし、大規模な公共工事があまり行われてこなかったことが、酷道を温存している主な要因だろう。
今回ご紹介する国道438号は、徳島県徳島市を起点とし、終点の香川県坂出市までを結んでいる。総延長は172キロほどだが、半分近くがヨサクとの重複区間だ。酷道439号は本誌22号で既に紹介しているので、重複区間は割愛させていただく。
この日、徳島県美馬市から438号を南下した。立派な美馬橋で吉野川を渡ると、あっさりとセンターラインが消え、支流の貞光川に沿って道が延びている。この先には集落が点在しており、民家の軒先を走る住宅地型の酷道が続く。
集落内のガソリンスタンドには“剣山ルート最後のGS”の看板が掲げられていた。この日は岐阜でプリウスをレンタルして来たので、ガス欠の心配は無さそうだ。激しい酷道で給油ランプが点灯した時ほど、心細いものはない。心配事といえば、既に日没が迫っていることと、レンタカーの返却時刻が迫っていることだけだ。
幾つかの集落を抜けると〝別称自衛隊道路〟の石柱が立っていた。自衛隊では訓練を兼ねて土木工事の受託を行っており、道路整備を請け負うこともある。そのイメージ通り、山間部で敷設が困難な道路であることが多い。
この先、本格的な山道が続く。本当ならウキウキ気分になるのだが、周囲が薄暗くなってきたため、気持ちに焦りが生じてきた。真っ暗になると見通しが悪いうえ、写真が撮れなくなってしまう。どんなに焦っても、急げないのが酷道だ。酷道では何があっても安全速度で走るのが、結果として最大の近道となる。
ヘアピンカーブが連続し、それぞれにナンバーが割り振られていた。〝第一ヘヤーピン〟という看板を見て、思わず車を止めた。一般的には〝ヘアピン〟と表記されることが多く、設置者の並々ならぬこだわりが感じられる。〝ヘヤーピン〟に想いを馳せていたが、あっさりと裏切られた。第二以降は〝ヘヤピン〟と表記されていた。これには正直ガッカリした。
日没を気にしながら、なんとか日没前にヨサクとの合流地点に到達した。激しい山奥で標高も高いが、剣山への玄関口ということもあり、土産物屋や民宿が何軒か営業している。激しい山道をずっと走ってきたので、ちょっと不思議な光景だ。
休憩していると、真っ暗になってしまった。この先は、どこに向かうにも酷道しか道がない。ヨサクとの併設区間を経て徳島に抜けるのが得策だろう。暗闇の酷道を、しばらく走ることになる。しかし、その前にどうしてもやらなければならないことがあった。岐阜のレンタカー店に電話し、返却が1時間ほど遅れそうだと伝えて丁重にお詫びした。
“最後のGS”の看板が、この先の過酷な道のりを連想させる。
“ヘヤーピン”という表記はこれまでに見たことが無かった。しかし、ヘヤーピンは第一だけだった。
鹿取茂雄
酷い道や廃れた場所に魅力を感じ、週末になると全国の酷道や廃墟を旅している。2000年にWEBサイト「TEAM 酷道」をスタート。新著『酷道大百科』(実業之日本社)発売中!
http://teamkokudo.org/