冬だからできる作業。水管が閉じている季節に枝を払いフィールドを整備する。眠っていた道具に命を吹き込み自分の道具として活かす。街で山を想い、山で街を思う時、少し強くなろうと背伸びする。不便さは豊かさであり、足るを知ることである。
写真・文/荒井裕介
足りない物を補う。道具を愛する技と心
10年程前に購入したハチェットはヘッドが重く刃も厚く、軽度の薪割りには良かったのだがクラフトを込みで考えると使いにくかった。数年間は我慢して使っていたのだが、結局自宅の薪割り用になってしまった。鋼材に不満はなく、研げば切れる。庭の片隅で錆びついたそれを見て心が痛かった。ハンドルも傷んでいたので、ハンドルの挿げ替えと同時に形状を変えてメインアックスにしようと考えた。
見直すのはブレード厚と形状、重量、ハンドルのバランスだ。これを見直すとほぼ全てをカスタムすることにはなるが、安価なアックスであろうと大切な道具には変わりはない。それなら拘りを詰め込んで自分だけのアックスを作ればいい。
今年は暖冬の影響で、山では枝が遅くまで伸びていたようだ。それらの手入れもある。人が手を加えないと荒れ放題の山になってしまう。アックスは、その道具としても作り直す価値は十分あり、魅力的な素材である。
今回製作中にカスタムナイフメーカー・ベアトープの福田さんに技術指南を受け、磨きを行った。できあがった物は理想にほぼ近い使い心地となった。山を想い街で作り上げたギアを実際に山で使うと、少しだけ強くなれた気がした。もし眠っているアイテムがあるならば、是非、自分専用のギアとして命を吹き込み直してもらいたいと今回の経験を通して感じた。
森に棲むなら道具を永く使いたい!?
斧を修繕する
バランスが合わず眠っていたハチェットを再びフィールドギアとして甦らせる。疲れず切れるハチェットへ変身させるのだ。愛情を持って道具を活かすこともブッシュクラフトであるはずだ。
1.古くなった柄を切り落とす。できるだけギリギリにカットするのが望ましい。ヒッコリーのハンドルは簡単に切り落とせる。
2.マスキングをしてマーカーを引く。この時ヘッドを好みのサイズ、重量に調整するように心掛けるのがポイントだ。
3.カット、荒削り、バリ取り、中磨きと順を追って進める。中磨きはフェルトディスクで行うとエッジが綺麗に仕上がる。
4.木製のジグを作り、耐水ペーパーを固定し、同一方向に磨いてサンダーの傷を消すようにする。#400〜#2000まで行う。
5.タモの木にカットラインを引く。タモは木製バットに使われており、海外ではアッシュ材としてアックスのハンドルにも使われる。
6.当初ジグソーで行おうとしたが高速に動く刃では熱を持ち過ぎるため引き回しの手作業で進めていくことにした。
7.ナイフですげ込み部分を大まかに仕上げたらハチェットで荒削りをしていく。後半はよく研いだナイフで均等に仕上げる。
8.最後はサンドペーパーや鬼目ヤスリで微調整を行う。何度も握りを確認して心地よい握りに仕上げる。ささくれも注意して除去する。
9.メタルコンパウンドで鏡面に仕上げる。耐水ペーパーと同様だが必ず同じ方向に磨く。傷が見えたら耐水ペーパーに戻る。
10.クサビは十字の木クサビを打ち込むため室穴の形状に合わせ十字に切れ込みを入れる。このとき、刃の厚いノコギリを使うとよい。
11.シタン(紫檀)でクサビを作り、十字に組めるようにしてバトンで打ち込む。最後に丸クサビを打ち込んで完成だ!
12.ハンドルは熊の脂を塗り込んだあとカルナバ蝋をウエスで熱を持つように擦って磨き上げると光沢とグリップ力が増す。
13.完成! このアックスはブレードが厚く、細かい作業で弾かれる感じがあったので薄いコンベックスに変更した。ハンドルは3cm程長くし、ブレードを鏡面に仕上げた。拘りを詰め込んだ1本だ。愛情を持って使い続けたい。
ブッシュクラフター 荒井裕介
「ワイルドライフクリエーター」これを肩書きに決めました。内容は?狩猟、採取、ブッシュクラフト、バグアウト、サバイバルスキルを駆使、追求する! 荒井裕介Busch Craft & Bug Out Schoolもオープンしました! 詳しくは僕のフェイスブックで!
シースも手作りすればさらに愛着が湧く
シースは2mm厚のヌメ革で製作した。シースは好みが分かれる部分なので自身の使い方に合わせて製作することをお勧めするがコバの処理などはしっかり行ったほうがいい。シースの防水も熊の脂で仕上げている。